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□HEART BEAT
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ある朝、いつものように登校し下駄箱で上靴に履き替えていると、掲示板のところで腕を組んで立っている音石を見つけた。
「なに見てるの」
「あァ…?ギズモか…。いや…コレなんだけどよ」
彼が指差す先には、1枚の紙が画鋲で留められていた。
「“文化祭有志発表募集のお知らせ”…」
「毎年やってんだろ、特設ステージんとこで」
「それは知ってるけど…今年もエントリーするの?」
「あったり前だろ!今年で最後だぞ俺ら!!」
「今まで2回ともオーディション落ちてるのに?」
「そりゃあ審査するヤツらのレベルが低いからだぜ。形にハマった生温い音楽しか聞いてねーからだな」
さも自分には一切の原因はないという音石に、それならアンタの言う低いレベルまで引き下げてやればいいんじゃないの、と思うけど、それはきっと彼のポリシーに反するんだろう。面倒臭いやつ。
「それにあいつらだって俺の音楽がどれだけ斬新で素晴らしいか今に気付くぜェ…何たって俺には大勢の観客どもが俺の演奏に酔いしれる光景が目に浮かんでっからなァ……」
音石は目を瞑ると気持ち良さそうに指を動かしてギターを弾く真似をして見せた。
今頃彼の瞼の裏では、『AKIRA OTOISHI ソロライブ in Japan 』とでも名の付いた自称大型イベントが始まったようである。
通り過ぎて行く生徒たちの視線が痛いが、この男と一緒に居ればこんなのは日常茶飯事だ。
「…私もギター始めよっかなー」
「? なんだよ突然」
隣の私の独り言なんて聞こえてないと思ったのに、音石はエアギターを中断して反応した。
「え、あー…音石の見てて前から興味あったし」
「お前なぁ〜…俺に憧れんのは勝手だけどよ、触ったこともねーだろ」
「うん」
「ンな奴が軽い思いつきでギターなんか始めても時間の無駄だぜ?特にギズモなんか出来なくて途中で投げ出すに決まってる」
「教えてもらえばいいじゃん」
「そんなの誰に…」
「ほら、隣のクラスに居るじゃん、プロの人達とバンド組んでるっていう男の子。例えばあの子とかに頼んで…」
何て名前だっけ、と続けようとすると、いきなり音石に手首を掴まれて彼の方へグイッと引かれた。