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□私を惑わせるあなた
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カーテンから差し込む朝日。
雀の囀り。
コーヒーの香り。

瞼をゆっくり開けると、そこはもう何度も見慣れた部屋。けれどここは私の部屋ではない。



「…起きたかい?」



頭上から降ってくる少ししがれた声。



「吉良…さん……」

「朝食を済ませたら君も早く身支度をしなさい」



見れば彼は既にスーツのネクタイを締めている最中だった。

まだ時間に余裕はある。
シーツの衣擦れの音を耳に感じながら、もそもそと布団から起き上がる。

机には少し冷めかけたコーヒーとパン。
吉良さんの家で出されるこれらはどこのものとも違う。あまり種類に詳しくない私でも、この違いははっきりと感じる。

なんとなくつきっぱなしのTVはこの部屋の生活音の一部くらいにしかなっていない。
杜王町ではまた幼い少女を狙った殺人事件が起きたらしい。
痛ましい出来事に朝から胸がどんよりと濁む。


クローゼットの扉には、丁寧にハンガーにかけられた私の制服。今朝はシワひとつない。



「今朝は天気が良いな…」



そう言いながらシーツを直す吉良さん。

私も飲み終わったコップと皿を洗って拭いて棚に戻した。
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