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□御手と言わずにこの身も全て、拝借より頂戴。
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好きな人に似ているから、なんて我ながらイタイ理由だと思う。
最近ウチの高校によく出没するノラ猫。
出没場所は様々、時間も不定期。それでも目撃情報は多く、生徒それぞれが思い思いの名前をつけて可愛がっている。
ちなみに私はこっそり『コタちゃん』とよんでいる。
由来は、部活の先輩・葉山小太郎さんから勝手に拝借している。私が入部してからずっと思いを寄せている人。
「コタちゃーん、牛乳持ってきたよ」
購買で買ったパックの牛乳を100均のプラ皿に注ぐと、チロチロと飲み始める。
そんなコタちゃんの姿を眺めながら癒されるのが最近の私の日課。
「可愛いなあ〜…」
頭を優しく撫でると、手に顔をすり寄せてくる。
そんな仕草にすら、葉山先輩のことを連想してしまう。先輩は私にこんなことしないのに。
(私って不純…)
失礼な妄想を打ち消して、集まった熱を下げようと顔に手をあてた。
「コタちゃんには平気なのにな…」
いざ先輩を目の前にすると、緊張して言葉が出てこない。
言いたいことの半分も伝わらない。
毎日そんな自己嫌悪に襲われて、今日こそは、って決意をダメにする。
好きな気持ちばっかりが募って積もって、自分で自分を苦しめる。
「ニャー…?」
私の浮かない顔を見上げ、コタちゃんも細く鳴く。
ごめんね何でもないよ、ともうひと撫でしたところで、頭の中でピンと閃いた音がした。
「コタちゃん……れ…練習に付き合ってもらってもいいですか、」
コタちゃんを相手に先輩との会話の練習。
コタちゃんを持ち上げ、目線を合わせる。
じっと見つめ合うだけでドキドキし始めた。
すーっはーっ、と深呼吸を繰り返し、心をなるべく落ち着かせる。
「せ…先輩、きょ、今日もいい天気ですねっ!」
「ニャー」
「この前の試合、すごくカッコよかったです!」
「グルグル……」
「あ、あのっ……わたし、は…葉山先輩のことが……………すっ」
「こんなとこで何してんの、ギズモ?」
背後からまさかの本物登場。
「ははははは葉山せんぱいいいっ!?!?!?」
「ギズモってば驚きすぎ!」
やっぱお前おもしれー、と笑いながら近寄り、隣りに腰を下ろした。
「あ、お前も居たのか2号!」
そしてコタちゃんに気がつくやいなや、ガシガシと頭を撫でる先輩。
コタちゃんちょっと嫌がってる。
「に…2号……?」
「小太郎2号。ほら、俺に似てんだろ?」
私の腕からコタちゃんを抱き上げ、自分の顔の横に持ってくる。
……やっぱり似てる。先輩が2人並んだみたいで、直視できない。
私も、思ってました。
先輩と同じこと、考えてました。
「……っ、」
すごく嬉しいのに、伝えたいのに、また言葉が奥でつっかえて上手く出てこない。
結局いつもみたいに俯くことしか出来ない。
先輩が傍に居る身体の右側が、熱い。
先輩は黙ったままの私の横顔を一瞥した後、コタちゃんに向き直った。
「お前は幸せ者だなぁ、ギズモにこんなに可愛がってもらえて。1号は超羨ましいぞ、このやろー!」
(………え、)
おでこをくっつけ、眉間にシワを寄せる。
「…でもな、俺はお前と違って人間だからしゃべれるんだ。今からギズモに……その…、言うからさ、見てて!」
コタちゃんから顔を離し下ろした先輩はいつの間にかもう笑っていなくて、代わりにちょっと恥ずかしそうに唇を結んでいた。
初めて私たちの視線が交わる。
喉がゴクリと鳴る。
ニャア、と足下でコタちゃんが私たちに向かって鳴いた。
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ニャンニャン(2/22)の日記念!