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□処刑台からエスケープ
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紫原くんはウチのクラスで一番背が高い。


噂によると2mは超えているらしい。
整列すれば彼のところだけ突出しているし、教室の出入口を頭スレスレでくぐってくるのも彼だけだ。

とにかくあの巨体では全てが規格外で、何をするにも目立ってしまう。

廊下を歩くときも体育館で集会をするときも、いつも皆が彼に好奇の目を向ける。
でも彼自身はそんなことは一切気にしていない様子で、わざわざ見下げて私たちと視線を交わすこともしない。

堂々と居眠りもするし、すれ違いざまにこっちのカバンが軽く当たったくらいでは全く気付かないのだ。



この不思議で、ちょっと不気味な男の子と私が関わるようになったのは、つい3日前の6時間目・LHRの時間のことだった。

1か月に1度、くじ引きで行われる席替え。
私は紫原くんの隣の席になった。


紫原くんは入学して間もなく指定席になった。
彼の後ろからでは黒板が見えないという不都合が生じたので、窓側列の一番後ろに追いやれられたのだった。



『よろしくね』

『……………』



荷物と一緒に机と椅子を運んで並べた私に、紫原くんはさして興味無さそうにチラリと私を見やっただけだった。
自分が参加しない席替えで誰が隣に来ようが、どうでもいいに違いない。


あれからまだ、紫原くんとは一度も会話をしていない。

多分これからも、何ら変わりなく日々は過ぎて、紫原くんにとって私はただのクラスメイト、それ以上でもそれ以下でもないままなのだろう。


知名度と皆の関心を惹きつける栄光に満ちた3年間の中で、真っ先に埋もれていってしまうような。



(せいぜい私は今の間だけこのスターを近くで拝めるラッキーな機会だと思っておこう)



私にとっては、この平凡な高校生活の中できっと忘れられない一時になると思うから。
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