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□♡に火をつけて
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「うー…寒ィ」
丸めた背中がブルリと震える。
「上着なよー」
「学ラン固くて動きづれーの」
キャメルのカーディガンの袖を伸ばしながら不機嫌そうな顔で振り返った俺に、後ろの席のギズモも頬杖をついた。
外は今日も身を切るような冷たさで、教室には一応ストーブが点いているものの、生憎廊下側の俺たちの席には、温風は申し訳程度にしか届かない。
俺たちは机の下で冷えた脚を擦り合わせるしかなかった。
「つか何でギズモはそんな平気なんだよ」
「へへ。聞きたい?」
「どっちでも」
「まーまー、見なさいって!」
するとギズモは何を思ったか、着ているセーラーの裾に手をかけ、捲ろうとし始めた。
「ちょっ、お前何し…!」
突然の行動にどう制していいかわからず、座っていたイスがガタッと揺れる。
「これでーす!」
そこには、インナーの上からお腹の辺りに貼られた、白い何か。
「貼るカイロです!」
「な…、何だよビックリしただろーが!」
「え、何で怒るの?!」
隔てた布一枚に半分安心したが、無駄に早まった鼓動が治まらない。
怒ってねーよ、と顔を背けた。
「全然平気ってわけでもないけど、これひとつでだいぶマシになるよ」
「へー、そりゃ羨ましい」
「清志も欲しい?」
「あー、欲しい欲しい」
「じゃあ、あげる」
素っ気無く返した言葉で本当にもらえるとは。タダでもらえるモンなら頂こうと顔を再び向けた途端、
ベリベリベリッ、
「は、えっ?!」
今度はそのカイロを剥がし始めたのである。
驚きのあまり我ながら間抜けな声が出た。
一方のギズモは何てことない様子で剥離し終えると、
「はい、前向いてー」
「そ、それを俺に貼る気か?」
「うん。あ、嫌?」
清志ってそういうの気にする人だっけ?
いや、別に潔癖とかじゃねーけど。
そういう以前に、それ使い捨ての使い済みじゃねぇ?
それを他人にやるか、普通。
「嫌じゃねーけど…」
けれども、実際俺の口から断る言葉は出てこなかった。
「りょうかーい!ちょっと待ってね…、」
「……はいはい」
結局俺はギズモに背を向けて座り直す。
確かに、嫌ではねぇ。
ただ、今の今までお前に貼り付いてたそれが、俺の身体に、間接的にではあるが──
(……なんかハズいだろ!! )
「えいっ、」
暫くして、カーディガンを捲られた下のシャツに、カイロがやや強い力で押し付けられた。
「さ…サンキュー……」
「お返しはいつでもいいよ!」
半ば強引に恩まで押し付けられたところで、予鈴が鳴った。