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□アイラブユー フォーエバー
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「只今帰りました」

「おかっ、おかえり!!」



玄関からテツヤが帰ってきた音がして、私は急いで読んでいた雑誌を咄嗟にソファーの下に隠した。



「どうかしたんですか?」

「な、なんでもないよ!」



いつもならすぐに玄関まで行ってお迎えをするのだが、今日はそれが無いのを少し不審がっているみたいだ。

でも良かった、深くはつっこまれなさそう。



「今日もお疲れ。ごはんできてるよ」

「んー…」



テツヤはスーツのジャケットだけソファーに掛けると、そのまま床に寝転がってしまった。



「そんなに疲れてるの?」

「はい…ちょっと」

「でもそこで寝ちゃだめだよー、風邪引くし私部屋まで運べないし」

「わかってます」



うつ伏せにしていた顔を、くるっと横に向ける。

ん?とテツヤの目が細くなった。よく凝らして、何かを見るような。



「なんですか?あれ」



寝転がったままの彼が、細い指をまっすぐに指す。
その先は―――勿論ベッドの下。


早速見つかった…!!



「えっ、何もないよ私今日掃除機かけたもん!ね、早くご飯食べよう?」



必死に彼の興味をそらそうとするが、聞こえていない様子。

腕を伸ばしてついに狭い隙間から雑誌を引っ張り出した。



「これ…」



私が隠し、テツヤが見つけてしまったその雑誌。
それは、某ウェディング情報誌だった。



「…買ったんですか?」



外国人の女性がドレス姿に身を包み、花柄であしらわれた幸せオーラいっぱいの表紙を私の方に向けて尋ねる。
黙って小さく頷くことしか出来なかった。



「…馬鹿だよね。そんな予定もないのに1人で舞い上がって…こんなん買っちゃってさ」




私とテツヤは高校生の時に付き合い始めた。
大学卒業後、テツヤが就職先の職場にも慣れたころ、



『僕のところに来てくれませんか』



ドキリとして、おそるおそる『嫁に…?』ときいたら不思議な顔をされた。慌てて訂正した。

元々テツヤが1人で住んでいたこの部屋に、実家から荷物を運んで、私も住むことに決めた。

最初は両親に反対されたけれど、無理矢理押し切って家を出た。
今では、フリーターの私よりも多めに家賃や生活費を出してこんな立派なマンションの一室に住まわせてくれているテツヤに家族揃って頭が上がらない。


同棲し始めてしばらくが経つと、そろそろ"その先"を考えてしまう。付き合い始めて、同棲して、その先にあるもの。


今日のバイト帰りに何気なく立ち寄った書店で、思わず手にとってしまった。
だってタイトルが『すべての幸せな恋人たちへ!愛のプロポーズ大作戦!!』だったから。




「羨ましかったの。私もこの人たちみたいに綺麗なドレス着て、お化粧して、大好きな人の隣で夢みたいな1日を過ごしてみたいって思った」

「…………」

「でも夢じゃなくて、それから毎日、ずーっと、一緒に暮らすの。恋人としてじゃなくて、家族として。どんなときも離れないで、1日の始まりも終わりも傍にいたい」

「…ギズモさん、」

「私、テツヤのおよ…」



言いかけたところで、グッと肩を引き寄せられた。
テツヤのシャツの肩口に顔が埋まる。……熱い。



「…僕から言わせてください」



彼には珍しく、許可を待たない言い方。
私はゆっくり頷くしかなかった。

テツヤは私の肩に回していた腕を離して、おもむろに自分の通勤用カバンの中を探った。
中から出てきたのは──、



「えっ」



思わず大きな声が出た。

まさかの全く同じ某ウェディング情報誌。

一瞬目を疑った。でも、さっきソファから出した方はその後テツヤがテーブルの上に置いて、今も確かにそこにある。
と、いうことは…



「僕も…買ってしまったんです」



珍しくテツヤの顔が少しだけ赤い。彼は色白だからすぐにわかる。



「そ…そうだったんだ……」



…って、待って。
ということは……


私が口を開けたのとほぼ同時に、いやそれより早く、テツヤが話し始めた。
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