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□Don’t think, feel.
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此処は秋田県にある陽泉高校、そしてとある2学年の教室の中。
でも、今回は俺の話じゃなくて目の前で座っている悩める青少年の話。
「氷室…もう俺は駄目かもしれないアル…」
「何もそんな深刻そうな顔しなくても…」
この劉偉という男の子、俺とは同級生であり、バスケ部のチームメイトなんだけど、最近具合が悪いらしくて昨日は部活も休んだ。
仲間としては心配だし、出来ることがあれば力になりたい。
「具体的にどんな症状なの?」
「心臓が痛むアル…」
心臓かぁ…
場合によっては重い病気ってこともあるよね……
「いつから?」
「…たしか1ヶ月くらい前アル」
「その頃に何か変わったことはあった?」
急な環境の変化が心身に負担をかけている、ってこともあるし。
「たしか…席替えをしたアル」
机や椅子、周辺の床か壁に何か原因が…?
俺が頭を悩ませていると、
「劉くん!!」
教室に、ひとりの女子生徒が入ってきた。劉のクラスメイトかな?
「っ、ギズモ!!」
劉も劉で彼女の姿に気付くなり、思わず立ち上がっちゃってる。
ギズモというらしい彼女は、そのままこちらに小走りで近づいてくる。
手には…何やら白い紙?
「あのね、聞いて劉くん、あのね!!」
「ち、ちゃんと聞くからまず落ち着くアル」
劉は興奮気味の彼女の肩に手を乗せて、一旦勢いをたしなめる。
それでギズモちゃんも少しずつ落ち着きを取り戻したようで、小さく深呼吸をした。
そして、一呼吸置いてから、
「国語の追試、合格したよ!!」
「本当アルか!?」
見て!とギズモちゃんが手に持っていた答案用紙をビシッと広げて見せる。
得点欄には、92点と書かれている。なるほど、確かにこれは高得点。
「劉くんのおかげだよ!」
「そ…!そんなことないアル。頑張ったギズモの努力の成果アル」
「ううん、劉くんが手伝ってくれなきゃきっとこんな点数までとれなかったよ。だから、この結果を誰よりも一番に劉くんに伝えたかったの」
「…俺も嬉しいアル」
ニコニコと嬉しそうに答案用紙を眺めるギズモちゃんを見て、劉も本当に嬉しそう。
…と、いうより……あれ?
何か劉の顔、少し苦しげに見えるんだけど…
「ホントにありがとうね!あ、お礼どうしよう…?」
「気遣わなくても…」
ギズモちゃんは少しの間考えた後、「あっ!」と思い出したようにスカートのポケットから財布を取り出した。
お札入れの中から2枚の薄い券を引き抜く。
そしてその1枚を劉に渡した。
「駅前に新しくオープンしたラーメン屋さんの無料招待券!あげる」
券を受け取った劉は黙ったままそれを見つめている。
「元々タダなんだけどね。でも、味は確かだから安心して!それにこれなら劉くんも気遣わな…」
「もう1枚はどうするアルか」
劉が尋ねたことに、ギズモちゃんは「えっ?」と財布をしまう手を止めた。
「ギズモも一緒に行けばいいアル。今日、俺と」
「…!」
今度はギズモちゃんが黙ってしまった。