etc book

□遮るものは無くなった
1ページ/4ページ

あ、ちょっと左にずれた。
今度は右が。左が、右が。





「……やってしまった」



いつの間やら、洗面所の流しには多量の切れ切れとした髪の毛が散っている。
見慣れた黒い境界線は、眉毛上2.5cmのところにあった。








おでこがスースーする。いつもあるべきところに“それ”がないというのは、ひどく落ち着かない。

憂鬱な気分で登校すると、早速下駄箱でクラスメートに出くわしてしまった。



「おはよーっす」

「あ…おはよ…」

「何だよ、元気ねーな」



向日岳人は怪訝そうな顔で上履きをつま先で引っかけた。



「でこ押さえて…気分でもわりぃのか?」



岳人はさらに疑いの色を濃くして、ギズモの顔をのぞき込んできた。
岳人の手がギズモのおでこに触れようとした時、



「だっ、大丈夫だから!なんでもないから!!」



すっかり量が減ってしまった前髪を必死に押さえつけながら、一目散に逃げた。

こんなの知り合いに見られたらおしまいだ!








授業中も休むことなく前髪を押さえ続ける。



「熱でもあんのかー?保健室行けよー」

「いえ、大丈夫です」



先生は今朝の岳人と同じような顔をして、再び黒板に向き直った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ