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□私が神であったら、青春を人生の終わりにおくだろう
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陸上部でもないのに、さっきからグラウンドを走り続けている人がいる。



「な、何やってるんですか…?」



気だるそうに歩を進める阿伏兎に、ギズモは思い切って声をかけた。



「ァ?ギズモか。罰だよ、罰」



罰…?
一瞬キョトンとしたが、すぐに思い当たった。


先日、夜兎工業高校の神威一派が銀魂高校に殴り込んだ一件。
先方の教師が上手く丸め込んだとかで全面抗争は免れたものの、一時は緊張状態が続いていた。

他の生徒は長々と反省文を書かされていたが、主犯とされた神威と阿伏兎は特に絞られた。



「ったく、俺はアイツに付き合わされただけだってのによォ…」

「あはは…」



校舎の壁の落書き掃除を任されたにも関わらず、いつものように顔面に笑みを貼り付けて裏門から出て行った先程の彼を思い出す。

言わない方がいい事だろうが、実質ナンバー2の副番には、番長の動向も予想がついているのかもしれない。



「それで走らされてるんですか」

「あァ。100周」

「ひゃくっ…?!……ホントに走るんですかそれ」

「あれだけ見られてりゃあな」



阿伏兎が目線だけを寄越した先には職員室があり、中から鋭い視線でこちらを射抜く星海坊主の姿があった。



「最近何かあるとすぐ『卒業取り消すぞオラァ』っつって脅してきやがる」



流石にもうダブりたくねェ、と呆れた表情をしながら、遅くとも歩みは止めない。

ギズモもそれについていく。



「でも、みんなより長く青春できたって思えば留年も悪くないなー、なんて…思ったりしません?」

「悪くないわけないだろ、このすっとこどっこいが。学生なんざ3年で十分だ」

「そう、ですか…」

「俺の場合は呑気やってたらいつの間にかこんなとこまで来てたからなァ。いい加減辛ェのさ」



遠くを見つめるような仕草に、ふとこの人は今までどんな学生生活を送ってきたんだろうと考えた。

何人の同期生を見送ってきたんだろう。何度の春を通り過ぎてきたんだろう。


大きな体を窮屈な長ランに包んで、無精ひげを剃ることもやめたこの一人の男は、生徒というには成熟し過ぎている。

あとは枯れていくのを待つだけに見えた。



「……阿伏兎さんは、まだ青い果実ですよ」

「あん?」

「まだ枯れちゃいないってことです。最後の学生生活、楽しみましょう!」



強く言い切ったギズモの真剣な顔を阿伏兎はポカンとした顔でしばらく眺めた後、
突然、



「ぶッ、」

「な、なんで笑うんですか!!」

「い、や、すまねェ。俺を喰っちまうつもりなのかと思ってよ。学生生活な、はいはい」

「阿伏兎さんが突然ジジくさいこと言い出すから…例えで、」

「まァ、おまえさんに会えたことからすりゃあダブったのも悪くなかったかもな」



トラックを半周したあたりでさらに減速して足を止めた阿伏兎に、ギズモもつられて立ち止まる。



「え、」



靴3つ分ぐらい先でギズモが振り返ったのとほぼ同時に、風であらわになった額に柔らかくてカサついた何かが押しあてられた。


それが阿伏兎の唇だと、目を開いたままのギズモはすぐに理解した。



「こんだけ長く学生やってても青春なんざ出来た試しがなくてねェ。今年で最後だ、付き合ってくれや」

「………え、あ…あの、」

「コラァァァ!何サボってんだ阿伏兎ォォ!!」



割り込んできた怒声にハッとして顔を向けると、職員室の窓枠から身を乗り出して、これまた別の意味で顔を真っ赤にした星海坊主が拳を振り上げていた。



「10周追加だァァァ!」

「あー…クソ、あと何周走りゃあいいんだ」



心底面倒臭そうに走りを再開した阿伏兎が、ギズモを横をすり抜けて行く。

舞い上がった風が、口付けられた額を優しく撫でた。



「…………これが、青春…?」



小さく呟いた後、ギズモはさっきよりも少しペースを上げた彼の背中に追いつくため、足を踏み出した。




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『すっとこどっこい』を言わせたくて最終的に無理矢理ねじこんだお話。
阿伏兎が無事に卒業出来てたらいいな!

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