虹色の日々

□水色
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Jside


明日は待ちに待った沙織の退院。
迎えに行くって約束したから、おばちゃんに確認しとく。

「もしもし?おばちゃん?」

『あら、潤くん。こんばんは。どうかした?』

「明日、退院でしょ?俺も行くから。」

『大丈夫?午前中よ?』

「仕事は午後だから、大丈夫。ね、胃潰瘍って聞いたけど、大丈夫なの?」

『胃潰瘍と十二指腸潰瘍ね。大丈夫。薬で治る程度らしいから。それより、明日、何で来るの?』

「車で行く予定だけど。」

『荷物あるから、タクシーでは無理かもしれないわ。2台かしらね。』

「大きいの、借りれるか、聞いてみるよ。無理なら2台だね。何時間に行く予定?」

おばちゃんに予定を詳しく聞いてから、マネージャーに電話する。いつも迎えに来るワンボックスを借りる算段をつけて、着ていく服も決めておく。

いつもならなかなか起きられないけど、今日はシャッキリおきられた!
マネージャーの所までタクシーで行って、ワンボックスを借りて病院に向かった。

病院の駐車場に車を停めて、ハットにサングラス姿で、中に入る。
看護師さんの視線を多少感じながら、病室に入ると、ピンクのフリフリの服を着た沙織が座っていた。
うさぎを抱きしめて座ってる姿は本当にお人形みたいで、息をしてるのか確認したくなった。

沙織が置いていったミミを渡して、今日1日抱いていてもらうことにした。
退院の手続きも終わって、荷物を幾つか持って、病院のロータリーまで車を持って来た。

おばちゃんの荷物を受け取って車に積み込んだら、車椅子の沙織が立ち上がった。
おばちゃんが畳んだ車椅子も積み込んだ所で、見送りに出てきた看護師さん達に挨拶した。

ハットを取って挨拶したら、ざわめき始めたから、すぐに車に乗り込んだ。
沙織とおばちゃんもすぐに乗り込んで、車を出した。

「気づかれたかな?」

「大丈夫だよ。あんな一瞬。他人の空似だって。このまま家に帰ればいい?」

「あ、じぃじのとこに行って?お薬、出してもらわないと。」

「わかった。」

爺ちゃんの病院に行くと、診察が始まってて、すごく混んでる。
沙織に感染るとマズいから、裏から入った。
勝手知ったる他人の家で、沙織はパタパタ歩いて、爺ちゃんに飛びつく。

「じぃじ!ただいま!」

「おう!随分元気そうじゃないか。」

「あのね、あっちの先生から紹介状もらってきたの。お薬、出して?」

紹介状を開いて読んでいく爺ちゃんの眉間にシワがよってる。

「いつものはまだあるのか?」

「あと一週間分はあるよ。ね、あまりよくない?」

「いや、そんな事はないよ。とりあえず、今からちょっと診察して、一週間分だけ出してやる。残りは村上先生から出してもらえ。あっち用の紹介状ももらってきただろう?」

「うん。」

「経過報告も兼ねて、薬のあるうちにK大で診察を受けておいで。いいな?」

「わかった。」

爺ちゃんに診察してもらった沙織は処方せんをもらって、爺ちゃんちを出た。
おばちゃんを近くの薬局で降ろして、マンションに向かって、地下駐車場に入った。

沙織の車椅子を押して、まず沙織の部屋に連れて行く。

「荷物、持ってくるから、休んでろよ?」

「ありがと。」

車からスーツケースとバッグを降ろして、部屋に戻って玄関のドアを開けると、すーっと爽やかな風が部屋を吹き抜けた。

「ただいま。スーツケース、どこに置く?」

「おかえりっ!ありがとね。部屋に入れて?」

部屋の窓が全開で、そこそこ風が動いている。沙織の部屋の窓を閉めて、エアコンのスイッチを入れた。

「沙織?水は飲んだ?」

「んー、これから。」

冷凍庫から細長い保冷剤を出して、タオルで包む。冷蔵庫からOS−1と冷却シートを出す。

「こっちおいで。」

フラフラと部屋の中を動き回ってなにかしてる沙織を捕まえて、腕の中に閉じ込める。
身体全体は熱いのに、汗の気配がない。

「ほら、もう熱くなってる。」

首に保冷剤のタオルを巻き、おデコに冷却シートを貼り付けた。
脇に体温計を挟んで腕を押さえて、OS‐1をグラスに入れて持たせると、美味しそうに数口飲んだ。

「もう少し飲んで?」

沙織が俺を見ながらグラス半分まで飲んだのを確認してから抱き上げて、部屋に連れて行く。

エアコンを入れておいたから、部屋はすっかり冷えていた。

「ほら、8度以上ある。爺ちゃんとこに、逆戻りしたくなかったら、しばらくここで休んでな。荷物なんか触るなよ。」

「うん。」

「アイスバッグを作ってくるから。いい子にしてな。飲めたら、もう少し飲んどいて。」

部屋を出て、アイシングバッグをふたつ作って、別の保冷剤をタオルで包む。
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