虹色の日々

□桃色
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Jside


レンタカーを返しに行って、そのままタクシーで行きつけのバーへ向かう。
ひとりなら、いつもカウンターで飲むんだけど、今日はなんとなくひとりになりたくて、個室を頼んだ。
スマホを触って、ニノに掛ける。

「もしもし?俺。」

『はいはい。なに?』

「沙織は病院だから。」

『あー、で連絡ないのね。了解。潤くんは?』

「バーで飲んでる。」

『いつものとこ?』

「そ。じゃね。」

切ったら、次は翔くんに電話をする。

「もしもし?俺。今、いい?」

『おう。松潤。なに?』

「ごめん。俺、しくじった。」

『え?何?何やったの?』

「俺さ、沙織のアドレスを翔くんに教えた事を、伝えるのを忘れてた。」

『ちょ、それマジ?』

「うん。沙織、すげー怒っちゃって…」

『そりゃ、怒るだろ。』

「翔くんと俺、しばらく出禁食らった。」

『ゲッ!』

「ちょっと、へこんじゃってひとりで飲んでる。」

『いつものとこ?』

「そう。」

『近くにいるから、今から行く。』

「わかった。」

五分そこそこで、翔くんが入ってきて、目の前にドカッと座った。
翔くんはメニューを見て、酒と食い物を追加で頼んだ。

「ごめん。うっかりしてた」

「沙織ちゃんは?」

「怒って興奮しちゃったみたいで、発作出ちゃって、病院。」

「前のとこ?」

「いや、俺も沙織も子どもの頃からのかかりつけ。爺ちゃん先生でさ。主治医を紹介してくれたのも爺ちゃんなんだ。」

「連絡は?」

「しばらく、連絡するなって爺ちゃんに怒られた。はぁ…失敗したわ。ちょっと、認識が甘かった。一緒にメシも食ったし、何回か顔も見てるし、もう大丈夫だと思ってた。」

「基準はわからないけど、ガードは硬そうだな。」

「ニノは比較にならないからなぁ。」

「俺が何ですって?」

「ニノ!」

スタスタ入ってきて、ストンと座ると、さっさと酒を頼んで、つまみを食い始めた。

「潤くん、何したんです?そんな情けない顔して。」

「沙織ちゃんち、出禁。」

「は?潤くんが?」

「俺も。」

「ちょっと〜、何したんすか。」

「アドレスの流出?」

「それは諦めなさい。も〜!潤くんが出禁なら、誰も行けないじゃないですか。」

「ニノはさ、いつ教えてもらったの?」

「この前の手術の直前かな。沙織ちゃんのガードとチェックは厳しいんで。」

「そうなの?」

「そうですよ。何回話して、何回通った事か。」

「確かに、電話は何回も奪われたな(笑)」

「メシも通ってたよな。」

「沙織ちゃんはさ、基本的に交際範囲を広げようと思ってないんですよ。今のままで十分満足してるから、アドレス交換も必要ないんです。」

「じゃあ、なんで教えてもらったの?」

「俺の健康の為?(笑)でも、沙織ちゃん発信のメールはないよ。翔ちゃんは彼女がちゃんといるじゃん。自分でもやってけそうだし。」

「そうでも無いんだけどな。」

「もう少し常識的な人だと思ってたって。」

「うわ、最悪だ。」

「本当ごめん。」

「潤くんだけが悪い訳じゃないですよ。潤くんが後で話すからって事に、疑問を持たずにアドレスを聞いちゃった翔さんも悪いでしょ。」

「だよな〜。」

「で?沙織ちゃんは?」

「アドレス事件発覚で、スマホをへし折りそうなくらい怒ってて、一ヶ月以上ぶりの発作出ちゃって。」

はぁって、ニノが大きくため息をついた。

「スマホをへし折るって(笑)」

「ホントだって。ガラケーなら確実に真っ二つだよ。ミシミシ!って音したんだから!その後で爺ちゃんに電話してたから、壊れてないとは思うけど。」

「沙織ちゃんが怒ったら大変だってのは、今更でしょ。」

「そうなんだよ〜。どうしよう…はぁ、困ったな。」
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