虹色の日々

□藤色
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嵐の皆さんが来て、食事をした日に出た熱は、ストレスだったみたいで、翌日には下がって、病院には行かずに済んだ。

熱は下がったけれど、身体は怠くてベッドから出る気がしない日が続いている。

元々慢性的に貧血なところに、月一のお約束がくると確実に血が足りない。
退院後の初めての診察の日も、結構目眩がひどくて、自分で車椅子の操作ができなかった。

心臓は順調に回復しているらしい。
確かに、リハビリしていてもあまり息苦しさは感じない。

ただ、貧血は相変わらずで、通院する度に点滴のお世話になっていた。

退院後、お母さんのお世話になるのは一週間の予定だったのに、貧血がひどくてほとんど寝たきりで、結局お母さんは一ヶ月間泊まるはめになった。

お母さんがいない間、お兄ちゃんと美紀ちゃんが家の事をしてくれていたらしいけど、一ヶ月のお母さんの不在に、お父さんが耐えられず、お母さんを迎えに来た。

お父さんも心配して、戻ってこい、とうるさかったけど、頑として譲らなかった。

当たり前じゃない!家に帰ったら、絶対に、もう戻って来れない。
潤くんの近くにいたいんだから!

週に一回、お母さんが様子を見に来る事と、毎日電話をすることを条件に一人暮らしの続行が決まった。

お父さんとお母さんをマンションの地下で見送って、そのまま車椅子で外に出た。

近くを一周するくらいのつもりで出たから少し薄着だけれど、少し暑いくらいの良い天気。

入院中に桜も終わってしまって、青空に緑の葉が映えて、お日様の光にツヤツヤとして元気に茂っている。

通りに面した公園に、綺麗な藤棚があって、花が涼しげに揺れている。
花の匂いに誘われるように、公園に入った。

砂場では、小さな子供達が遊んでいて、お母さん達も楽しそうに話している。

藤棚の下は少し日陰になっていて、吹いてくる風が涼しい。
風が吹く度に花の匂いが強くなる。

スマホを出して、何枚か写真を撮って、潤くんに送った。
車椅子に載せっぱなしになっているバッグから、スケッチブックを引っ張り出すと、色鉛筆を動かす。

しばらく夢中で描いていたら、視線に気づいた。
視線の先には、さっきまで遠くで話していたお母さんの一人が、少し近いところで私のほうを観ていた。

目が合ったので、ちょっと笑って会釈したら、向こうからも会釈が返ってきた。

もう少し描こうと藤棚を見上げた時、スマホが鳴った。
画面表示は潤くんで、すぐにタップした。

「もしもし?今、休憩中なの?」

『そう。外出てて大丈夫なの?』

「さっきね、お母さん達を送ったの。で、ついでに散歩。」

『ちゃんと暖かくしてる?』

「潤くん、外に出てないでしょ?今日は暑いくらいのいい天気だよ。」

『どうせ薄着なんだろ?どのくらいそこにいるの?』

「んー、あ、もう一時間経ってる!」

『もう帰れ!水分補給しないと!どうせ持ってきてないだろ?』

「あと少しなんだけどな〜」

『明日にしろって。明日なら、午前中は付き合えるから。』

「ホント?やった〜!わかった。これから帰るね。」

『帰ったら、部屋からメールして。いいな?』

「はいはい。」

『はい、は一回!』

「はーい。」

『間延びした返事をすんな。』

「わかったから。切るよ?じゃあね。」

『沙織?』

「なぁに?」

『愛してる』

「ふふっ。私も愛してる(笑)」

電話の向こうで、「愛してるだって〜!」と騒ぐ相葉さんの声がする。

「聞かれてたね(笑)」

『やられた。じゃあね。夜、行くから。』

「ご飯は?」

『いいよ。寝てろよ?』

「わかった。頑張ってね。」

スマホをタップしてから、もう一度藤棚を見上げる。
もう一度写真撮ってから、公園を出た。

そのまま帰らずに、少し遠回りする道を選んだ。
こんなところにこんなお店、あった?って感じの八百屋さんを発見した。

店先の野菜達は、スーパーよりも元気そうに見えた。
真っ赤なトマトが美味しそうで、手を伸ばすけど、ちょっと届かない。

立ち上がろうとした時、奥からおじさんが出てきた。

「いらっしゃい。トマトかい?」

「すごく美味しそうで。」

「完熟したのを今朝採ってきたトマトだからね。」

「朝採れの野菜なんて、久しぶりに見ました。」

「そうかい?うちは数は少ないけど、そんな野菜ばっかりだよ。」

「いいところ、見つけちゃった(笑)このトマト、3カゴください。」

「味みなくて大丈夫かい?」

「おじさんを見れば自信があるの、わかりますよ。今日はトマト祭りにします(笑)」

おじさんが袋にトマトを入れてくれて、後ろのバッグに入れてくれた。

「ほい、ありがとう。おまけしといたから、ご贔屓に(笑)」

「ありがとう。」

おじさんの笑顔に見送られて、マンションに帰ったら、スマホにいくつも着信がきてる。
もちろん、相手は潤くんで…

「やばい…」

急いで写真撮って送ると、すぐにスマホが鳴った。

ため息をついてタップする。

「もしも『遅い!大丈夫なの?』」

かぶせるように声がした。

「大丈夫だよ。つい買い物しちゃったから。」

『そんな寄り道すんなよ。』

「帰り道だったの。すごく美味しそうなトマトだったからね。いっぱい買ってきた(笑)今日はトマト祭りにするよ。」

『マジで?』

「朝採れたてのトマトだって。葉っぱもピンピンなの。」

『…わかった。頑張って早く帰るから。でも、絶対に無理すんなよ?とにかく、今から少し休んで、それからにしろよ。料理も休みながらな?』

「うん。さすがに久しぶりの外で、ちょっと疲れた(笑)そうするね。」

『なんかあったら連絡しろよ。スマホ、近くにおいとくから。』

「仕事中なのに、置いといて大丈夫なの?」

『大丈夫だから。じゃあな。本当にちゃんと休めよ?』

「うん。じゃあね。」

スマホにチュッって音を立ててキスをした。

スマホの向こうが黙り込んだ。

『…お前さ〜、今すぐに帰りたくなったじゃん。』

「ふふっ。頑張ってきてね(笑)」

スマホを切って、部屋に戻る。
アラームをセットしてから、今晩のメニューをあれこれ考えながら、ベッドに寝転んだ。
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