虹色の日々

□さくら色
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Jside


今日は仕事前に、沙織を見舞いたくて、少し早めに起きた。

俺が起きたら、横に寝ていたニノがムックリと起きあがった。

「悪い。起こしちゃった?まだ早いよ。」

「風呂、入るから。起きます。」

ぼーっとしたニノが、ヨロヨロと風呂場に行った。

「タオル、置いとくよ。」

「ありがと」

顔を洗ってから着替えて、朝メシの用意をする。

解凍しておいたミネストローネを鍋に移し、温める。

スパニッシュオムレツもフライパンで焦がさないようにゆっくり温める。

レタスや水菜、いっぱいあったニンジンも入れて、サラダを作る。

沙織が作ってくれたドレッシングも出して置く。

さっぱりしたニノが出てきて、匂いを嗅いでいる。

「あー、やっぱりいい匂い。」

「食べていいよ。このドレッシングは沙織の手作り。ケチャップは、沙織が気に入って、取り寄せてるんだ。」

いつもたくさん食べないニノが、沙織の料理はキチンと食べてる。

「沙織ちゃんのご飯は、ちゃんと身体に入ってく感じがするんだよね。美味しいね。」

「それ聞いたら、喜ぶよ。もう少しタマゴ、食べる?」

「食べる。スープもある?」

「あるよ。早起きしたご褒美だな(笑)」


「ニノ。悪いけど、先に出るね。」

「沙織ちゃんによろしくね。」

呼んでおいたタクシーの時間に合わせて、出掛ける準備をして、家を出た。

病院について、そのままICUに向かう。

入口のインターホンを押して、声をかけると、扉が開いた。

沙織のうさぎを入れたいと頼んで、消毒してもらっている間に、自分の準備をする。

しっかりと手洗いとうがいをして、消毒液で手を消毒する。
指示通りに使い捨ての白衣を着て、マスクをする。

うさぎをもらってから扉が開いて、中に入った。

案内されて奥に進むと、一番奥のベッドに沙織がいた。

酸素マスクをつけて、眠っている沙織に付けられた心電図のモニターからは規則的な電子音がしている。

倒れた時より、ほんの少し顔色がよくなっていて、ホッとする。

枕に広がった柔らかな髪をそっと整えて、額の髪を梳く。

マスクの中の鼻には、流動食のチューブが入っている。

そっと触れた頬や唇は、いつもはしっとりしているのに、少し乾燥して、かさかさしている気がした。

看護師さんに確認して、沙織が使っている保湿クリームを少し頬に塗って、そっと伸ばしていく。
リップクリームを指に取って、ちょっとだけマスクをずらして、隙間から唇に塗る。

「沙織、うさぎ、連れてきたよ。宝物も一緒にね。」

枕元にうさぎを置いていると、沙織の目がゆっくり開いた。

「沙織?わかるか?」

「潤くん…会いたかっ…た」

「俺もだよ。苦しくない?」

「ん。」

ニッコリ笑ってくれて、ホッとする。

「うさぎ、連れてきたよ。ここにあるからね。」

「ありがと。」

「しばらく、寂しいだろうけど、俺も我慢するから、一緒に頑張ろうな。」

「うん。」

大きな瞳から、ポロポロ涙が溢れ出す。

「苦しくなるから、泣いちゃダメだよ。ちゃんと息をして。ほら、笑ってごらん。いっぱい顔を見に来るからね。」

「ん、ん」

「手は動かせるの?」

「できるよ。」

「じゃあ、もし、沙織が寝ていたら、メモを残すからね。返事はしなくていいよ。寂しくなったら、読んで?」

「ん、楽しみに…してる」

沙織の手を握って、繋がってる機械と点滴の針を避けて、手の平にキスを落とす。

「潤くん…愛してる」

「愛してるよ。離れていても、ずっと沙織を想ってるからね。」

ゆっくり髪を梳いて、頬を撫でる。

何回も何回も。

そのうちに、沙織はゆっくり目を閉じた。

名残り惜しくて、離れ難くて、時間ギリギリまで沙織の側にいた。
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