Novel

□虹の桜
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桜の木を抜いた。


この時期だけ虹色に輝くと言われるマグノリアの桜。その輝きを見ることが出来るのは、夜、日が沈んだ時だけだ。それまでは太陽の光が邪魔をして見ることは出来ない。

そんなマグノリアの桜をギルドのメンバーみんなと見たい、とナツは思っていた。綺麗なものはみんなで見たほうがより楽しめる。だから、みんなで桜を見てわいわいと騒ぎたかった。

だけど、1人だけそのメンバーから外れた者がいた。

ルーシィだった。

ルーシィはまだ入ってから1年経たないぐらいの新人だ。初めは変なやつだなあとしか思っていなかったが、チームを組んでから少しずつルーシィのことが分かってきた。
負けず嫌いで、騒がしくて、役には立たないのに仕事に付いてきたり。でも、優しくて、誰よりも星霊のことを想っている、それがルーシィだった。
そんな1年足らずの新人がいないとつまらないと思ってしまうほどナツはルーシィを気にかけていた。

そのルーシィが花見に来れない。にわかには信じがたいことだった。
いつも側にいたからかもしれない。ルーシィがいつも元気に笑っていたからかもしれない。ルーシィなら来れる、そう思わずにはいられなかった。
朝、あんなにも顔を赤く染め、あんなにも辛そうに話すルーシィを見たのに。

「ルーシィが気になる?」
ミラジェーンに言われ、嘘をつけるほど器用ではないナツは素直に頷いた。ミラジェーンは微笑むと、そうねえ、と考えるような態度を取った。
「ルーシィにも見せられるといいんだけどね」
ミラジェーンはどこから出したのか、カメラを取り出すとそのままナツに差し出した。
「これならどうかしら?きっとルーシィも喜ぶわ」
それだけ言うとミラジェーンはナツから離れマスターのもとへと行った。

ナツはミラジェーンから貰ったカメラと、今、目の前で咲き誇るマグノリアの、ルーシィが見たいと憧れていた虹色の桜を交互に見つめた。
カメラで撮れば、その虹色の桜は永遠に写真として残る。が、それでいいのだろうか。ルーシィが初めて憧れていた虹色の桜を見るのに、それが写真でした、というのは。やっぱり生で見るほうがルーシィにとってもいいのではないか。普段は使わない頭を使い、ナツは何かいい方法はないかと必死で考えた。

「ナツ、どうする?」
ハッピーは考えこんでしまったナツを覗き込むように見つめた。
「よしっ!決めた!」
ナツは伏せていた顔をあげると、振り向きハッピーに小さく耳打ちした。
「桜の木、抜くぞ」
「ええっ!?」
ナツは驚くハッピーの口をふさぎ、ショベルと植木鉢を持ってくるように伝えると、みんなが帰って行くのを待った。


「帰らねえのか?」
いつの間にか服を脱いでいたグレイが腕を組み、聞いてきた。
「ああ」
「桜をまだ見ていたい、ってか?どんだけ乙女主義なんだよ、お前はよ」
ばかにするようなグレイの態度に、ナツはうるせえ、と叫んだ。
「お前が言うな、グレイ!」
「何だと?」
眉間にしわを寄せ、グレイとナツは顔を合わせた。
「桜の花びら持って帰ろうとしてんのが見え見えなんだよタレ目野郎」
「いつまでも桜見たがってるやつに言われたくねえんだよつり目野郎」
ああ?やんのかコラ、と喧嘩を始めた2人をエルザが殴って止める。
「やめんか、お前ら」
グレイには帰るぞ、とナツには早く帰るんだぞ、と言葉を残しエルザは帰り道を進んだ。手には大量の花びらが握られていたが、誰も突っ込むことは出来なかった。


桜の下、1人残った人物に声が掛けられる。
「ナツ〜」
ふらふらと、でも確実にここまで飛んでくる猫にナツは手を挙げた。
「ハッピー!」
ハッピーはナツのもとへ着くと、どすんと桜の木が入るぐらいの大きめの植木鉢とその中に入れておいたショベルを置きながらひどいよ、と文句を言い始めた。
「オイラ1人じゃ重たすぎるよナツ」
「いつもオレ運んでんじゃねえか」
「……あ」
図星だったのか、照れ隠しをするハッピーと手を合わせてからナツはショベルを手に取った。
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