短編
□夏の一時
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「………………」
「どうした?」
今日は八月の末、残暑に気を遣いながら紅葉の秋を期待して過ごす季節。
しかしそれより早く、篠ノ之箒の頬は紅葉以上に紅く染まっていた。
理由は一つ、あの夏祭り以来顔を合わせて来なかった想い人、刹那・F・セイエイが目の前にいるからだ。─────その刹那本人が使う寮の部屋のベッドで。
「(ど、どうしてこんな事に…)」
若干の後悔と共に、箒は今日の事を思い出していた。
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「さてっ!始めるか!」
篠ノ之箒は朝早く、刹那の部屋で一人ハタキと雑巾を持って立っていた。
……と言うのも、今なお世界の第一線で戦い続ける彼が1ヶ月以上放置している部屋を掃除して、彼が戻ってきた時自慢しようと考えたのだ。───ついでに彼がもし怪しい物を隠し持っていないかという、小さな疑いを持って。
ちなみに、彼は部屋に鍵を掛けていない。理由は彼曰く【盗む物は何もない】との事。
「───いや!刹那に限ってそんないかがわしい、ふしだらな物などは………!」
とは言えど、やはり彼も男子。[そういう物]を持っていても可笑しくはない。どうしてもその方向に加担してしまう。
「…………始めよう、うん」
若干納得がいかないまま、箒は部屋を掃除し始めた。
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「………ふぅ……何も無い」
掃除を始めて小三十分、既に埃を払い、雑巾がけを終えたのだが……彼の部屋は、驚くほど何も無かった。有ったのはIS学園の制服、唯一つ。
もはや、驚きを超えてつまらないというレベルに達していた。
「何か一つくらいは……そう言えば、机の中は?」
後確認していないのは、ベッド横の収納と、机の中の引き出し。ベッド下はスペースが無いので、もうそこしかない。
「………開けるか」
箒は意を決し、机の引き出しを下段から一つ一つ開けていく。何故下段から開けたのかは───箒にも分からなかった。ただ、何となく、上段は最後に開けるべきだと思った。
「無い……無い……無い……無───あっ」
結局一番最後の上段まで開ける事となったが───そこには一つ。
「………機械の、箱?」
何やら極々小さなパネルのような物が配置されただけの、銀色の鋼の箱。
「一体何が入っているんだ……」
どうにかして開けようとするが、どれだけ強く引っ張ってもうんともすんとも言わない。
いい加減端を刀で切り裂いてやろうかと考えた、その時。
Pi…
「?うん?何───のわあっ?」
一瞬小さな電子音がしたかと思うと、いきなり箱が機械音を唸らせた。箒は危うく箱を落としそうになった。
───そこに有ったのは。
「───写真、だ。しかも、これは……あの時の」