喰えない子

□誕生日
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「華、」


その可愛らしい顔が隠れてしまうほどの大きな薔薇の花束を、愛しの恋人に差し出した。


「誕生日おめでとう」


大げさに見えるくらいが丁度いい。
なんといっても、今日は特別な日なのだから。


「…?」


しかし、いくら待てども反応がない。
不審に思い花束の間から彼女の顔を覗き見ると、見事なまでの膨れ面がそこにあった。

いったいどうしたというのか。
何かカンに障ることでもしてしまったか。
それとも薔薇はお嫌いでしたか。
…などと思考を巡らせていると、華は意外な発言をした。


「…ずるい。」

「はい?…何がです。」

「メフィストさんは誕生日教えてくれない。…私だってお祝いしたいもん。」


お返しが出来ない、と拗ねてしまった彼女。
ああ今年もまた始まったか…

去年は確か、自分ばかり年を取ると拗ねていた。
その前の年は日付が変わってすぐ、私からの祝いの言葉より、奥村先生からのお祝いメールの方が速く届いたとか何とか。(その差1秒未満。)

そうやって毎年何かしらの文句をつけて拗ねて見せるのだ。
そして機嫌がよくなるまで、私が存分に甘やかす。
それが、この日の恒例行事になっていた。

迷惑極まりない行為ではあるが、つい甘やかしてしまうのは私の悪い癖だろうか。
しかし後に見せるご機嫌顔はまた格別なのだ。
我ながら、とことんはまっていると思う。


しかし、私の誕生日とは…気にも留めていなかった。
人というモノは、時に予想もしない言動、行動をとる。
特に華は、本当に面白い。


「気にすることありません。私が好きでやっているだけなのですから。」

「私だってお祝いしたいもん。サプライズとかしたいもん…」


どんどんと深みにはまっていく彼女。

これは困りました。
何百年と生きる私が自身の生まれた正確な日付など覚えているわけもない。
適当な日を言っても華は納得しないだろう。


「そういわれましても…私は貴方とともに過ごせれば、毎日が誕生日みたいなものですから☆」

「どこのイカレ帽子屋だよ。ぴったりじゃねーかよ。ここは不思議の国ですか」

「おや、厳しいですね」


そっぽを向いて完全に不機嫌モード。
頭を撫でてやってもいやいやと首を振るばかり。


「華?」

「…」


私の呼びかけにも反応しない。
さて、どうしたものか。


「…誕生日など、長い時のなかで忘れてしまいました。」

「…」

「ですから、いつでもいいですよ」

「…?」

「貴方が指定してください、その日を私の誕生日としましょう。ああ、もちろん毎日でもかまわないですよ☆」


きょとんとした顔、まっすぐな瞳で私を見つめる華。
ご機嫌まであと一歩だろうか・・・


「じゃあ…今日ね!」

「は、」

「ハッピーバースデー♪メッフィー!!」

「、い゙っぶッ!?」


どこからともなく取り出した白いケーキ、
…いや、どこぞのバラエティ番組で見た白いパイが顔面めがけて飛んできた。
まずい。視界が白い。


「わーい!サプライズ成功☆」


視界をふさぐクリームを拭うとそこには、格別のご機嫌顔と白いパイ第二弾があった。

幻覚だろうか。
それを再び投げた華の背後に、可愛らしい尻尾が見えた気がした。








(メッフィー顔真っ白!ぷぷぷ)
(では…私からもサプライズです☆パチン)
(ふぇ?んぶッ!!!)
(仕返しですよ☆)
(うわーん!!あ…コレ美味しい。)
(HappyBirthday,華)




→あとがき
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