喰えない子

□キョウダイ
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【メフィからの雪男夢】



とある昼下がり。
メフィストは勤務中の恋人、朝倉華を自身の仕事部屋に呼びつけた。

現場任務の数は少なくとも、日々の事務処理に追われる彼女は忙しい。
同じく忙しい身であるメフィスト、さらに公にしていない二人の関係。
そんなこともあってここ最近、二人が共に過ごす時間というのは無理にでも作らないと皆無に等しいのが現状だった。

部屋に入ってきた華は案の定「忙しいんですけど…」と怪訝な顔をしてみせたが、メフィストがそばに寄り髪を撫でてやると猫のように目を細めてふわりと微笑んだ。

華がメフィストの肩にもたれかかる。
彼女特有の甘い香りが鼻を掠めた。
もう一度髪を撫で、額にキスを落とす。
身長差のせいで華は自然と上目がちになっており、こちらを見つめる姿が憎いほどに愛らしい。
今度は頬に口を寄せ、そのまま耳元、首筋へ。


「ん、…」


甘い声が漏れる。
舌を這わせると香りはよりいっそう強まり、口内に甘味を感じた。


「めっふぃー…、」


不意に、華奢な腕で肩を押された。
一瞬みせた抵抗にメフィストは思わず眉をひそめてしまう。
素直に従い少し体を離すと、今度は華の方からメフィストの首に腕を絡めた。
小悪魔のような彼女がいたずらに微笑む。


「ちゃんと口に…して?」

「ふふ、我儘な子ですね…」


メフィストが華の言葉に応じる。
腰に手を添えた。
そして二人の唇が―――、




ゴンゴンゴン!!!

ガチャ!


「フェレス卿!お時間よろしいでしょうか」



――触れそうになった時だった。
突然扉がノックされ、華の同僚である祓魔師・奥村雪男が部屋に入ってきた。


「っ!///…のセクハラ上司ッ!!!!」

「オブゥッ!?」


雪男の入室に真っ先に反応した華は咄嗟にメフィストから身体を離し、首に絡めた腕をそのまま引き下げて…
彼の顔面に見事な膝蹴りを喰らわした。

顔面を押さえてごろごろとのたうち回るメフィストを横目に、華は顔を真っ赤にして肩で息をしていた。


「ちょっと華さん、何も本気で…!」

「うるさい変態!セクハ…」

ガンガンッ


突如、銃声が鳴り響いた。
二人の視線がその音源を辿るとそこには…
眼鏡の奥の瞳を黒く光らせた雪男がメフィストを睨んでいた。


「何をしているんです、フェレス卿?」

「おや…珍しいですね、奥村先生がそこまで感情的になられるとは。」

「何をしていたのかと聞いているんです!」


メフィストは「おお、怖い怖い☆」と雪男を挑発するかのように大袈裟に肩をすくませた。
雪男はそれにも動じず、なおもメフィストを睨み続ける。
メフィストは余裕の表情でそれを見ていた。
睨み合う二人の間に火花が散る。


「ゆ、ゆっきー落ちついて…フェレス卿も煽らないで!」


このような密会現場を團関係者に目撃されるのはそう少ないことでもない。
そんなときはいつも華が鉄拳制裁を下し強制終了、目撃者は「なんだ、いつもの茶番劇か」程度で自己完結して、事態は幕を下ろす。

華はいつも通りの手順を踏んだが、今回はそうも行かないようだった。
異常な空気に華は慌てる。
慌てたってどうすることもできないのだが。


「…そんなに怒ってばかりだと、生徒が怯えますよ?」

「余計なお世話です、質問に答えてください。」

「ふうむ。そんな貴方にはコレを差し上げましょうか☆」

「だから質問に…ッ!?」


メフィストが指をならすと、雪男の頭がピンクの煙に包まれた。
煙を払いのけると、


「なっ、なんだこれ…!」


雪男の頭には、自身の顔と同じくらいの大きさはあろう真っ赤なリボンがつけられていた。


「おや、お似合いではないですか☆ねぇ、朝倉先生?」

「えッ?まぁ、うん、可愛いよ…ふふ(笑)」


険しい表情の雪男に、なんとも不釣り合いなリボン…
最初はなんとか堪えた華だったが不意にメフィストに同意を求められ、思わず笑いが漏れた。

完全に、遊ばれている。
メフィストは雪男をさらに煽った。


「ほら、"お姉さん"もそうおっしゃってますよ?」


その言葉に雪男は目を見開く、メフィスト目掛けて銃を撃った。
それはメフィストのこめかみギリギリのところを通過し、背後の大きな窓ガラスを貫いた。
突然の襲撃にもメフィストは表情ひとつ変えない。


「おや、お気に召しませんでしたか?残念ですねぇ☆」

「フェレス卿…ふざけないでいただきたい。」

「あと、感情的になると手元が狂いますよ。初心を忘れるとは、感心しませんね。」

「わざと外したんです。次は当てますよ」


殺気に満ちた雪男が再び銃を構えた。
銃口は確実に己のほうを向いているにもかかわらず、メフィストはニヤニヤと笑う。


「ちょっ…雪くん何も本気で…!」


見かねた華が雪男を止めに入る。
それに気づいたメフィストが、


「おいたが過ぎましたかね、…野暮用を思い出しましたので失礼いたします☆」


と言うと同時にぽんっと煙が現れ、それが晴れるとメフィストの姿は消えていた。
お馴染みの逃亡術である。

部屋には華と、バカリボンを付けた雪男が残された。
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