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□綺麗なその手
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たまたま山口が先に(嶋田さんとの練習の為に)帰ってて、久し振りに縁下さんと2人で帰ることになった。付き合ってることは部員全員に既にバレてるけど、いつも一緒にいる山口といなかったら先輩たちがめんどくさいからあまり縁下さんと一緒に居られないだけで、本当はずっと一緒に居たいくらい。最近部活が忙しすぎて縁下さん不足なんだよ。今日縁下さんから一緒に帰らない?ってお誘いしてくれただけで僕やばかったし。小首傾げて上目遣いとか僕の理性を破壊しにかかってるとしか思えないね。帰る準備してる今だって落ち着かなさすぎていつも綺麗に畳んでる練習着も心なしか適当になってるし。山口だったらどうしたの!?とか言ってきそうだ。

「じゃ、帰ろっか」
そう言って微笑む縁下さんはとても綺麗でずっと見てたいと思う。
「はい」
2人でいるときは会話は少ない方だと思うけど、縁下さん相手なら僕だって普段より喋るし縁下さんだって少しボケて喋る。このやり取りが僕は好きだ。
ふと、縁下さんの指が案外綺麗なことに気付いた。
「縁下さんの指、意外と綺麗ですね」
「指?」
自分の指を眺める縁下さんも綺麗で、この人は何から何まで綺麗だなと思う。
「僕、綺麗な指好きですよ」
「そうか、ありがとな」
「まぁ、縁下さん限定ですケドね」
「ふはっ、何だそれ。そうだ、月島の指も見せてよ」
縁下さんはいきなり僕の手を掴んでまじまじと見つめ始める。本当に、いきなりこういうことするのやめてほしい僕の心臓止まるから。
「俺は月島の指、好きだよ」
「ソウデスカ」
「うん、ブロックで突き指したりスパイク打ってパックリ割れしてたりして、ちょっと綺麗とは言えないけど、バレーしてるって感じがして好き」
そう言いながら僕の方を向いて微笑む。多分、今僕の顔は真っ赤なんだろうなってわかるほど顔に熱が集中する。本当、縁下さんってズルいよね。
「縁下さん、ここ外ですよ。男が2人して手を握ってたら変に思われますよ?」
「あっ、ごめん…!」
顔を赤くして慌てて手を離そうとする逃がさないように掴む。少しくらい反撃したってバチは当たらないよね。
「ちょっと、月島!?」
「手を繋いで帰りましょう」
「はぁ!?何言ってんの!」
「好き、なんですよね?」
お得意のいつもの人をおちょくるときの顔を近づけて聞けば、更に顔を赤くする。そういう素直な反応してくれると止められないんだけど。
「…仕方ないから、繋いでやる」
そっぽを向かれてしまったけど、握り返してくれた手に内心ニヤニヤしながら残りの帰り道を手を繋いだまま歩いた。今まで自分の指とか別に好きじゃなかったし意識もしてなかったけど、縁下さんが好きって言ってくれるなら僕も少し、自分の指を好きになれそうな気がする。
「そろそろ分かれ道だから、手離そうか」
「そうですね」
手を離すのは名残惜しいけど、手を繋げただけで充分。
「また明日な」
「はい」
自分の家がある方向に体を向けて帰ろうとしたら、呼び止められた。
「月島!」
「なんですか…っ!」
いきなり制服の襟を引っ張られて唇に軽いキスをされる。すぐに離れた唇にびっくりしていると、イタズラが成功した子供みたいな顔をして笑っている縁下さんが目の前にいた。
「さっきの仕返し!俺だけ照れるのとかズルいからな。じゃ、また明日〜」
そう言って手を振りながら去っていく姿を見ることしかできなかった。暫くして今起きたことをしっかりと頭が理解したとき、道のど真ん中だということを忘れてしゃがみ込んでしまった。やられた…。
「あの人、絶対に自分がどれだけ破壊力あるかわかってない…」
僕はずっとあの人に振り回されるのかもしれないな。それも良いかな、って思うなんて、僕も重症だよね。

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