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□ほどほどにね
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俺は梟谷の副主将で、セッターをしている赤葦と付き合ってる。何がどうしてそうなったのかは謎で、いきなり赤葦が「一目惚れしました。付き合ってください」なんて言ってきたんだ。もちろん最初は断わったけどあまりにもしつこいからオッケーしたら、いつの間にか俺も好きになってたんだよね。人間、どこで何があるかわからないもんだね。
今は夏休みの長期の合宿で、日中は暑い中お互いが切磋琢磨しながら個々の技術の向上を目指して練習に励んでいる。当然疲れはあるが、俺は宮城、赤葦は東京と会おうと思って会えるような距離ではなく、こういった合宿の時にしか会えないから夜はどんなに疲れてても赤葦と一緒にいた。一緒にいるだけで幸せといえば幸せなんだけど、一つだけ不満がある。大事にされすぎてるんだ。手を繋ぐにしろ抱きしめるにしろ、俺から言わなきゃ絶対に赤葦から何もしてこない。だからそれ以上の事はしていない。俺も赤葦の事が好きだから、それ以上の事もしたいよ俺も人間だし男だし。その不満を今日こそは直接言ってやるんだ。


「縁下、お待たせ」
「お疲れ、今日はいつもより早かったね」
「上手いこと逃げてきた」
いつも待ち合わせ場所は決まっていて、あまり人目のつかない静かな場所。2人で並んで座って、いつも通りたわいもない話をする。こうして話している時も、赤葦は何もしてこない。そろそろ言おうかな。
「ねぇ、赤葦」
「なに、縁下」
「あのさ、いつも俺から言わなきゃ絶対に何もしてこないよね?ハグとかさ」
赤葦は普段の働かない表情筋を珍しく動かしてこちらを見る。
「だ、だって縁下のこと大事にしたいから」
ほら、大事にしたいって、しすぎなんだよお前は。
「だから、大事にし過ぎなんだって。俺は赤葦が好きだから付き合ってるんだよ?好きな人にされて嫌なことなんてないよ」
さっきよりも表情筋が働いて凄い驚いた顔になってる。赤葦ってこんな顔出来たんだ。
「少しくらい乱暴にされたって、壊れやしないさ。俺だって同じ男なんだから」
「…縁下、男前すぎ」
「赤葦がそんなんだからだよ」
手で顔を隠しながら俯く赤葦に笑いかければ、いきなり顔をあげて唇を塞がれる。
「っ、ん…」
角度を変えて何度も触れるだけのキスを繰り返す。嗚呼、こんなに余裕のない赤葦は初めて見たし、そうさせてるのが自分なんだと思うと凄く嬉しい。暫らくしてお互いの唇が離れていく。
「縁下、これからいきなりキスしたりするかもしれない…今のでなんかスイッチ入っちゃった」
「別にいいけど、場所は考えてね?」
スイッチ入っちゃったって言ってるけど、それでもきっと俺のこと大事にしてくれるんだろうなって思うと、本当に良い恋人を持ったなって胸が暖かくなる。
「ねぇ、力」
「なに、京治」
俺たちはまた、お互い引き寄せられるように唇を合わせた。この幸せな時間がずっと続けばいいな。







(この合宿が終わったらまた縁下と暫らく会えないのか…)
(まぁ、寂しいけど、次会うまでの我慢だね)
((…次会う時は、初日から余裕ないかも))

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