本棚

□薬は必要ですか?
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烏野高校排球部は普段、平日は勿論、土日も練習があり常に上を目指して練習に励んでいる。しかし今日は珍しく部活が休みになった。なんでも、体育館の点検があるようで使えないのだ。西谷と日向は体育館が使えないと聞いて明らかにしょぼくれていたが、じゃあどっか練習出来る場所探してやろうぜ!って言っていたので多分何処かの体育館で自主練しているだろう。
縁下は貴重な休日ということで午後から図書館へ来ていた。普段は忙しくて本を読む機会があまりないので、今日は大好きな本を読んで過ごそうと思っていたのだ。
好きな作家の本を三冊ほど読み終わり、時計を見ると夕方の5時を指していた。

(もうこんな時間か…そろそろ帰ろうかな)

縁下は読んでいた本を閉じて元の場所に戻す。久々に本を沢山読めて満足した様子で図書館を出た。
「んー、やっぱ静かな場所で本を読むのっていいな」
次はいつ来れるかな、と考えていると不意に声をかけられた。
「あれ?これはこれは烏野の縁下クンじゃないですか〜」
「うわっ…って、花巻さん!こんなところで何してるんですか」
声の主は青葉城西高校の花巻だった。花巻と縁下は恋人関係にある。
部のジャージを着ているところを見ると部活帰りのようだが、縁下は一応聞いてみた。
「そりゃー、可愛い縁下クンに会いに」
「嘘つかないでください、部活帰りですよね?」
「バレた?まぁ、このカッコだしね」
花巻はそう言いながら微笑んだ。青葉城西高校は県でベスト4に入る強豪校の為、烏野高校と同じく土日の休みはほとんどない。だから、花巻は縁下と偶然会えた事が嬉しくて堪らないのだ。
「それより、何してたの?今日休みだったんデショ?」
「午後からそこの図書館で本を読んでました」
「へー、じゃあ丁度良かったネ」
縁下はその言葉の意味がわからず、首を傾げた。花巻はそれに気づき、続けてこう言った。
「青葉は目の薬、っていうじゃん」
縁下は少し呆れたようにため息をつき、純粋に笑っている花巻に対して幸せそうな顔をして、と思った。
「たしかに貴方は“青葉”城西の人ですけど、緑の要素ないじゃないですか。むしろピンクですよね」
「え〜?恋人の俺をみて疲れた目を癒してよ〜」
ほんと縁下クンつれないなー、と花巻がぼやいている。縁下はこれで機嫌を損ねることはないとは思うが、どうしたものかと考えた。本当は花巻に会えただけでも十分嬉しいのに、そんな言葉をくれるなんで思ってもみなかったのだ。本人に言うと調子に乗るので絶対に言わないけど、結局縁下も花巻の事が好きなのだ。
「…花巻さん、俺は確かに目は疲れてますけど、薬は効きませんから」
「え、どういう意味?」
「…恋の病に薬なし、ですよ」
「!?」
花巻は嬉しすぎて何て行っていいのかわからないようだ。え、ちょ、え?と訳のわからない言葉を発している花巻を他所に、縁下は歩き出した。
「ほら、行きますよ、折角会えたんですから何処か寄って帰りましょうか」
「ちょっと何そんな可愛い事してくれちゃって!花巻サン嬉しい!何処いく?」
縁下は可愛いと言われて自分の発した言葉に対して盛大に赤面したが、たまには素直になるのも悪くないかなと思い、隣に並んだ花巻の小指を軽く握る。
「甘いもの食べたいです…貴大さんの好きな、シュークリーム」
「じゃあ、俺のオススメの店行こうか、チカちゃん」
花巻は縁下の手を握り直した。

2人の甘い時間はまだ始まったばっかり。

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