虚圏*破面

□純白の宝物
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『純白の宝物』




君がくれた愛しさとか優しさとか
何気ない思い出とか…

君を想うこのなんとも言えない想いが
アタシの宝物。





******





「うざったい雨。
降るなら降れっての!!


ん…?」



ーそれは今も時折記憶が甦る
初めての出逢いだった。


私が育った街は商いの街だった。


常に流通する商人が集まっていて
そこそこいい暮らししてるヤツばかりだ。

こぞって貧富の差が激しい流魂外と呼ばれた
この地区にしては楽園だったかもしれない。



ーその日は霧のような雨だった。



「この辺じゃ見ないヤツ
あんなとこで蹲って…」


よく見たら
泥だらけになってまでも
なにか大切そうに抱えてた。



「ふん。ま、いいや

どうせ質屋かなんかで盗んで
ブッ飛ばされたんだろうな

アザだらけで顔もあげられないか?」



そして見て見ぬフリをした。
こんなヤツはいくらでも居るのだ。


否、何故か目の前で立ち止まった。
艶やかな赤い女モノの着物が見えたのだ。



「…は?
女物の着物盗んでどうすんの?

アタシ達が売りに行ったって
相手してくれないよ??

この辺の事情初めて?
もしかして盗んだのも初めて?」


自分でも何言ってんだろって思った。
自分のことは自分でする。

助け合いなんてそんな余裕すら
此処に居る者達にはないのに。



「ちょっと…聞いてんの?」



銀色の髪の毛が雨に濡れて
しゅんとなっている。

いかにも弱々しさをかもし出した
胡散臭い同い年くらいの子供だった。


「盗んだんやない。
貰ったんや」


ボソっと少年は伏せたまま言った。

よく見たら手の回りに付いていたのは
どろじゃなくて血だった。

ちょっと引いた。
何者なんだろうって。



「いたぞ!!糞ガキ!!」


突然、四方八方から
商売人が追い掛けてきた。


「まじかよ。

お前、こいよ!!
逃げ道教えてやる!!!」


ガシッと強引に手を掴んで
裏道の方へ誘い込んだ。

足元がぬかるんで走りにくい。

つうか草履も鞋も履いてないだなんて
一体どこの地区の生まれだよって
頭の中はそんな事でいっぱいだった。


「お前なに?
何処の生まれなの?!」


走りながら振り返って見たが
大切そうに物を抱えて下ばかり見てる。


「ははは。
ま、訳ありだよね!

もうちょっと走って!
あいつらそこから先は来れないから」


建物の瓦礫の隙間を潜って
若干足を擦りむいて商人達を撒いた。


「はあっはあっはあ、」

「………っ」


二人の呼吸音が距離を縮めてる。


「あたし凛!
ねえ、名前なんていうの?

なんとか言ってよ」


擦りむいた足から血が流れていた。
ちょっと切ってしまったらしい。


「いたたー。最悪…」

「ギン…や」

ボソッと言った。

「助けてくれたんか
なんなんか知らんけどありがとな

僕、もういかな。」


下ばかり向いていたけど
その時はしっかりとあたしを見た。


なんて眼をしてるんだろうと思った。


「これ塗り。」


そう言って小さな貝に塗られた
異様な匂いのする塗り薬をくれた。


その後は振り返りもせずに
疾風のように去っていった。


「なにこれ。
こんなの見たことないや、

アイツの手作りか?」



くせえ。笑笑
そう言いながら塗った。


なんだろう?
アイツ、面白い。


また会えるかな






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