真偽

□1.5話
1ページ/2ページ


いつものように部活を終えた帰り道。

今日は桃先輩とも菊丸先輩とも一緒じゃなくて一人で帰ってきた。

だから今日はいつもの道を通らなかった。

一本だけ大通りを横切るからか人通りがあまりない道だ。


そこで俺は出会った。

落ちてくる鉄骨から何かを守ろうときつく目を瞑った女の子に。


とっさにラケットを取り出してありったけの力で鉄骨を狙った。

もちろん外すわけもなく、その女の子は無事に助かった。

でもなんだか不思議なことを言う人だった。

その声は聞きなれた彼女の声に似ていた。


「帰る家は?」


そう聞いた答えに返ってきたのは、「ない」という悲痛な答えだった。

嘘をついている目ではなかったし、心なしか震えていたから俺は何も聞かず本当だと思った。

悲しい顔をする彼女を放っておけなくて家に連れて帰った。

母さんも親父も彼女を気に入ったようですぐに養子にしようと言いだした。

もちろん彼女は困り果てていた。


『私戸籍がないから…。』


彼女から発される言葉はいつも悲しい言葉ばかりだ。


『私はこの世界で生きていたらいけない存在だから。』


あぁ…。
悲しい…。

君から発される言葉はこんなにも悲しい。

自分の生を否定する彼女になんだか腹が立った。


「バカ言ってんじゃねーよ!この世に生きてちゃいけない人間なんていないんだよ!」


言いたかったことを親父が代弁してくれていた。

君を守りたい。
君を傷つけたくない。
君に悲しい思いをさせたくない。

…あって1時間も立っていない彼女を俺はこんなにも大切だと思ってしまった。


『私はこの世界の人間じゃないんです。次元を超えてきたんです。』


衝撃の事実が語られる。


『信じられないですよね…。』


悲痛な顔をしてそう言う彼女が嘘をついているとは思えない。

でもそうだとしたら俺は漫画の中の主人公で、夏希はこの世界の住人ではないことになる。

そう考えるとなんだか寂しかった。
でも気持ち悪いとは思わなかった。

寧ろ嬉しかった。
夏希に会えたことが無性に嬉しかった。


しばらくして。


『パソコンないと生きていけないかも…。』


大げさとか思ったけど俺も、多分不二先輩もそうだろう。

ついついヲタクなのかと直球で聞き返してしまったが、特に気にしてない様子だったのでほっとした。

とにかく押入れからパソコン探してこよう…。


夕飯も食べ終わってしばらくしてから向かいの部屋からよく聞くボカロ曲が聞こえた。

すぐに切れてしまったが音的に携帯だろう。


(メールが繋がるのか…?)


『どうしよう…。きっと本当のこと』


泣きべそがピッタリ合うような顔をして俺を見上げた夏希はとても姉とは思えない。

もともと童顔だし、身長が無ければ妹だと勘違いしているところだ。

守ってあげたくなる。



結果、なんだか怪しい神様を信じることになり明日の為に寝ることになった。

お金より戸籍よりメールの中にあった向日葵が気になって仕方なかった。

文面的に人だろう。
その名前が俺の好きな彼女と同じ名前なのだ。


「ねぇ。向日葵って笑動の向日葵と関係ある?」

『笑動知ってるの?』


驚かれた。
そんなに驚くことにこっちがびっくりだ。


『私が向日葵です…』


聞きなれた向日葵の声に似ていると思っていたが本人だったとは…。

本当はかなりファンなのである。
不二先輩に教えられてからハマってそれいらいずっと追っかけていた。

新着は何だってチェックしていたし生放送も必ず見ていた。

まぁ、創造道理ではないけれど。

思っていたより顔は幼かったけど。

とてもきれいだった。
目の前にいることが嬉しかった。


姉になった向日葵改め夏希。

これからの人生を思って胸が歓喜した。
今度部活で先輩に会ったら教えてあげなくちゃ。
向日葵は実は姉でしたって。

秘密にするのも良いな。
俺だけの秘密。

大切なものを隠す子供みたいだけど。
隠したくなるほど嬉しい出来事だったのだ。

用事で帰れなかった先輩に感謝かな。

なんて思いながら眠りにつくのだった。


.後書き→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ