薄桜鬼

□愛を込めて君に
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自室へと戻ろうと歩いていた僕の目に、1人うずくまり何かをしている一君の姿が飛び込んだ。
うっすらと積もった雪の中で、少し遠目に見える一君は雪いじりをしているようだった。
特に急ぎの用事もなかった僕は、興味本意からその様子をしばらく観察してみることにした。
しかしいくらたっても一君が僕に気付く気配は微塵もなかった。
なんだか一君らしくない。
しびれを切らしていよいよ声をかけようかと踏み出した瞬間、不意に腰の辺りを勢いよく引っ張られてしまった。

「行っちゃダメです!沖田さん!」

そう小声で僕を制したのは千鶴ちゃんだった。
思わぬ突然の制止に腹が立った僕はあからさまに彼女を睨み付けてから口を開いた。

「どうして君にそんなこと言われなくちゃいけないの?なんの権利があるの?」

「…うっ。えっと、と、とにかくダメなんです!お願いします、今はそっとしておいてあげて下さい」

千鶴ちゃんは思いの外真剣に僕を見つめた。
あぁ。すっごく面倒な子。
この子、存在自体が面倒臭いんだよね。
なんて、そんな事を巡らせているうちに、結局一君の方も僕達に気付いてしまった。

「___そ、総司っ!」

耳に届いたそれは驚きの声だった。
そんなに驚かれると、僕もびっくりしちゃうんだけど。

「一君、何してたの?」

ひとまず僕は冷静に問いかけてみた。
そのまま石段を下りて歩を進めると、少しだけ積もった雪がサクサクと小気味良い音をたてた。
一君の足跡しかない雪の中を、僕はゆっくりと歩いて行った。

「沖田さん!戻って下さい!」

後ろから千鶴ちゃんが声を上げていたが、僕は何も聞こえないふりをして前方にいる一君にどんどん近付いて行った。

「大丈夫だ。今しがた出来上がったところだ」

寒さのせいか、頬を赤に染めてはにかんだ一君が、千鶴ちゃんに向かって声を投げた。
はっきり言って、僕の知らないところで二人が通じ合ってるなんてすごくおもしろくない。
目標としていた人物のすぐ前までたどり着いた僕は、おもむろに手を伸ばすと思い切り一君の腕を引っ張った。
よろめいた一君を抱き止めて、そのまま深い口づけをした。

「そ…、じっ!?」

突然千鶴ちゃんの前で口づけた僕を、一君はどうにか突き放そうと腕の中でもがいていた。
でももちろん離してなんかあげない。
もがけばもがく程に華奢な身体をきつく締め上げて、僕からは決して逃れられない事を刻み込んであげる。
そう、そして千鶴ちゃんに見せつけてあげなきゃ。
一君は僕のものなんだからって。
君になんてあげないよって。

一君に口づけながら僕は横目で千鶴ちゃんにちらりと視線を向けた。
その視線に気付いたからなのか、それともこの行為にただ驚いただけだったのかはわからないが、口元を両手で覆い、真っ赤な顔をした千鶴ちゃんはそのまま走り去ってしまった。
それを確認した僕は口の端でニヤリと微笑んで唇を放した。

「千鶴ちゃんと仲良くしてるみたいだったから、お仕置きだよ。君は僕のものだってこと、忘れないでよね」

あからさまな嫉妬心を向けて僕が言うと、一君は物言いだげな目線だけを寄越して苦笑した。
それにしても一君は一体いつからここに居たのか、口づけた唇の冷え方は異常で、見ればほんの少し紫がかってもいた。

「こんなに冷えて…まったく。本当に何してたのさ」

少したしなめるように呟いて冷たい唇をなぞると、僕を見上げて一君が優しく笑った。

「馬鹿だな、総司。俺はあんた以外見ていない。あんた以外…」 
 
困ったやつだと言わんばかりに一君は目を細めて、「これを作っていた」と足元を指差した。
その指の先に視線を落とすと可愛らしく雪で作られたうさぎがいた。

「これは雪うさぎというそうだ」

状況がよく呑み込めず目を凝らしていた僕に、指差したものが何なのかを一君は丁寧に教えてくれた。

「あ、いや、それは知ってるけど。え、まさか一君これ作ってただけ?」

「そうだが」

「ただ遊んでたってこと?」

「いや、そういうつもりではなかったのだが…でもそうなってしまうのだろうな」

そう言いながら一君は上手に作られた雪うさぎを自分の手のひらに乗せた。
きちんと耳も目も付いていて、本当に可愛らしいうさぎだった。
一君の両手にすっかり収まったそれを思わず凝視してしまっていると、すっと僕の目の前まで近付けられた。

「総司、これはあんたにやろう」

「えっ?…あっもしかして。これ僕の為に作ってた…の?」

一君は静かに微笑んだ。

「先程、雪村に作り方を教わった。あんたにあげたくなってしまってな。年がいもなく夢中に…ッ」

どうしようもなく弾み始めた自分の胸に余裕を奪われて、僕は強引に一君の唇を塞いで言葉を遮った。

「一君!大好きっ!さっきは千鶴ちゃんの前であんなことしちゃって、ごめんね?」

二人の雪うさぎを真ん中に、一君の冷えた身体を優しく抱き寄せて言った。

「あぁ。気にしていない。それに…その、少し言いにくいのだが…実はどのみち雪村は以前から俺達のことには気付いていたようだ…」

「_________えっ!?」




****




「___雪村。先日作ってもらった雪うさぎなんだが、あれをあげたいやつがいてな…作り方を教えてくれないか」

「わぁ!素敵ですね!いいですよ、きっと沖田さんも喜びますね。…って、あっ、しまっ…」

「ゆ、雪村!?何故!?」


二人の関係が実はすでに知られていた事を知った、そんな冬のある日。





【終】

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