薄桜鬼
□いちごみるく
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「な に し て る の さ っ !」
ゴッ!!!!
…鈍い音が響いた。
私の傍らにはさっき去っていったはずの沖田先輩がいて、斎藤先輩は…案の定というのか、やっぱり足元にいた。
「一君?君、今何しようとしてたの?まさかと思うけど、千鶴ちゃんにキスしようとしてなかった?」
沖田先輩は冷ややかな視線で斎藤先輩を見つめていた。
その視線に気付いたのか、慌てて立ち上がり姿勢を正しながら斎藤先輩は反論に出た。
「そ、そんなことはない!断じてない!」
「耳まで真っ赤にして何言ってんのさ。しかもいちごミルクまで持ち出して、さっきの僕達のやり取りいつから見てたの?」
今度は不適な笑みを浮かべて、沖田先輩は斎藤先輩に詰め寄った。
「まったく一君ってば、むっつりなんだから」
「むっ…!」
斎藤先輩が目を見開いたその瞬間___、
「どっちもどっちだバカヤロー!」
ボカッ!ゴッ!
今度は二度、鈍い音が響いた。
視線の先に、眉間にシワを寄せたスーツ姿の人物が立っていた。
「土方先生っ」
呆れ顔の土方先生は、頭を抱えた二人に視線を向けため息をついた。
「ったく。お前らなぁ、ここは校内だ
ぞ?周りの目を気にしろ」
「いったいなぁ!もうっ!」
「ひ、土方先生!俺としたことが…失礼しました」
沖田先輩と斎藤先輩、それぞれの反応には、とてもよく人柄が現れていると思う…。
土方先生の登場で一気に場は沈静化した。
「じゃ僕もう行くね。ご飯食べたいし」
はぁぁ…と大げさにため息をつきながら早々と立ち去ろうとした沖田先輩を、眉間のシワを一層深く刻み土方先生が睨んだ。
「待て総司。俺はお前を探してたんだ。おい、なんだ?あの絵は?テメェおちょくってんのか!?」
「え〜?やだなぁ。なんの話してるんですかぁ〜?」
思い当たることがあるんだろう、ニヤニヤと笑いながら沖田先輩はひょうひょうと言ってのけた。
「テメェ…今から職員室に来やがれ!それと斎藤、薫が探してたぞ。昼休みに風紀委員の集まりあるんだろ?」
土方先生の言葉にハッとした様子の斎藤先輩は慌てて頭を下げた。
「そうでした!ありがとうございます土方先生。では俺はこれで失礼します」
それだけ言うと斎藤先輩は足早に行ってしまった。
その姿を見送って土方先生は残された私達に向き直る。
「千鶴、お前は教室に戻れ。総司、テメェは俺と職員室だ」
「えええぇぇぇぇ〜。ご飯食べたいって言ってるじゃないですかぁ〜」
「うるせぇ!少しは反省しやがれ!」
廊下中に土方先生の怒声が響いた。
いかにも鬼という顔をした土方先生は、沖田先輩の襟首を掴み、そのままズルズルと引きずるようにして連れて行ってしまった___。
ぽつんと残された私の手には、飲みかけのいちごミルク。
沖田先輩と、斎藤先輩に、味見をされそうになったいちごミルク。
心臓はまだ甘く甘く高鳴っているのに、結局1人で全部飲み干した。。
【終】