薄桜鬼
□いちごみるく
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それはある日の昼休み。
「千鶴ちゃん、それおいしい?」
満面の笑みで話しかけてきたのは沖田先輩だ。
沖田先輩の言う『それ』とは、たぶん『これ』のこと。
私が飲んでる『いちごミルク』。
お弁当のお供に買ったいちごミルクを、教室までの道のりも待ちきれず私は飲みながら歩いていた。
「あんまりおいしそうに飲んでるからさ。くくくっ」
「えっ、そうでしたか?恥ずかしい…」
「ねぇ、おいしそうだから僕にもちょっと頂戴?」
そう言って沖田先輩は不用意に近付いてきた。
___えっ、これを?飲むの?えっ!?
プチパニックを起こした私は、整理がつかないままあたふたといちごミルクを差し出した。
スローモーションのように沖田先輩の綺麗な顔が近付く。
・・・・ふにっ。
突然、唇に押し当てられた感触。
「違う。こっちで味見させてよ」
それは沖田先輩の人差し指だった。
そのまま私の唇に近付く沖田先___。
「…何をしている」
ボカッ!
その鈍い音と同時に、近付く沖田先輩が視界から消えた。
「…ったぁ。何すんのさ、一君!」
うずくまった沖田先輩が私の足元にいて、代わりに目の前に現れたのは斎藤先輩だっ
た。
沖田先輩を見下ろす格好で静かに斎藤先輩が口を開いた。
「総司、お前は今何をしようとしていた?風紀委員として見過ごすわけにはいかない」
「はぁ?風紀委員として?違うでしょ。一君自身が、でしょ?」
立ち上がりながら沖田先輩は皮肉を言う。
その言葉に少なからず反応した斎藤先輩がぴくりと眉を動かした。
「そ、そんなわけないだろう。断じて、風紀委員としてだ」
斎藤先輩がはっきりとそう言い放ったことに、ちくりと私の胸が痛んだ。
期待してるわけじゃないけど、どうしてかな、はっきり口にされるとちょっとだけ悲しい。
「ふぅん?どうだか?…あーぁもう気分台無し。この続きはまた今度。ねっ、千鶴ちゃん」
華麗にウィンクを決めてみせてから、沖田先輩は1人軽やかにこの場を後にした。
一連のことに未だ呆然としていると、まだそこに残っていた斎藤先輩が話しかけてきた。
「大丈夫だったか。総司にはあまり隙を見せない方がいい」
「あ、はいっ」
あくまで真面目に言う斎藤先輩に、思わず私も真面目に返事をしてしまう。
その後の言葉を探していると、コホンッと咳払いが聞こえた。
「と、ところで、その、なんだ、いちごミルク、は…美味いのか」
咳払いの後に続いた斎藤先輩の言葉は、突然の話題転換だった。
またいちごミルク?そう思いながらも、私は笑って答えた。
「甘くておいしいですよ。斎藤先輩も今度飲んでみて下さい」
なんてことはない無難な返答をしたつもりだった。
「そ、そうか…ならば、そ、そ、それを、も、貰おう…」
私をデジャヴが襲う。
ついさっきの、沖田先輩と同じ___。