AMNESIA

□Important to you
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「ハッピーバースデー!ウキョウ!」

大きなリボンが結ばれた箱を両手で抱えて、その後ろから顔を出すようにして彼女は満面の笑みを見せていた。
俺が玄関を開けるのとほぼ同時に聞こえた彼女の言葉は確か…

「えっ?ハッピーバー…?っあ、あぁっ!」

そういえば今日は3月3日。
世間では桃の節句と言われていて、女の子の健康と幸せを願うとされている日だ。
そして、そんな女の子のお祝いの日にわざわざ生まれてきたのがこの俺だ。
本当に俺はどこまでも乙女だなと、自嘲的な笑いを漏らしながら彼女を見つめて再び口を開いた。

「ありがとう。すっかり忘れてたよ。久しぶりに祝ってもらったな…本当に、久しぶりに…」

何度も何度もあの8月を繰り返していた俺が誕生日を迎えるのは本当に久しぶりのことだった。
あの地獄のようなループから抜け出せたことだけでも俺にとっては夢のようなのに、まさか彼女から誕生日を祝ってもらえる日が来るなんて。

「ケーキ作ってきたの。一緒に食べよう?上がっていい?」

にっこりと笑って催促する彼女を家の中へと招き入れつつ、俺はこっそりと目尻を指で拭った。
もう何度、こうして泣いてしまいそうになる程の幸せを君から貰っただろう。
お邪魔しますと言って、当たり前のように部屋へと入っていく彼女の後ろ姿を見つめて俺は目を細めた。

「ウキョウ、キッチン借りるね」

荷物を置くなり足取りも軽くキッチンへ向かった彼女は、慣れた様子で二人分の紅茶を入れ始めていた。
テーブル代わりのトランクの上には、中身はケーキと思われる、彼女が抱えてきた箱が置かれていた。
さっき彼女は作ってきたと言っていた。
ということはだ。つまりこれは、手作りだ。
この可愛らしいリボンのラッピングをしたのも彼女自身だろう。
そう思った瞬間彼女への愛しさが一気に込み上げてきて、俺の涙腺は決壊寸前の危険極まりない状態へと追い込まれてしまった。

「お待たせウキョウ。紅茶入ったよ」

「あ、うん、ありが…あっ」

「ウキョウ…!?」

彼女の呼び掛けに答えようと不意に言葉を発した反動で、危険極まりない状態だった涙腺が思わぬ形で突然決壊してしまった。

「わっ、あっ、ごめっ、うわっ、恥ずかしい…」

自分でも不意打ちだった涙に動揺を隠し切れずにいると、手にしていた紅茶をテーブルに並べて、俺の横に座った彼女が優しく微笑んで言った。

「ウキョウは本当に泣き虫ね」

「うっ…否定出来ないよね…あーぁ。でも君からの手作りケーキだなんて感激しない方がおかしいよ」

「そうなの?ふふ。喜んでもらえたならよかった。ありがとう」

「えっ!それは俺の台詞です!ありがとう!本当に!ありがとう!」

思わず捲し立てるように言うと、びっくりした様子で彼女が吹き出した。

「うん。どういたしまして。本当に作ってきてよかった」

そう言って、チュッと軽く触れるだけのキスを俺の頬に落として彼女が微笑んだ。

君が、俺の為にケーキを手作りしてくれた事は本当に本当に嬉しくて、幸せで。
でもそれよりも何よりも、こうして君に祝って貰える誕生日を迎えられた事そのことが、俺にとっては本当に本当に夢のようで。

「ありがとう…」

そう呟きながら小さな彼女の身体を自分の胸に引き寄せて、ふわりと髪の毛が纏う肩に顔を埋めた。

「君が、好きだよ」

何度伝えても飽き足りないその言葉を口にしたのと同時に、俺の背中へと回されていた細い腕に力が入ったのがわかった。

「私も大好き。ねぇだからね、やっぱり私もあなたにありがとうなの。生まれてきてくれてありがとう、ウキョウ」

…きっと彼女は、俺の涙腺を壊したいんだとすら思えてきた。
そんなことを言うなんて、この俺が泣かないでいられるわけがない。
まったく本当に、君って子は…

再びこみ上げてきた涙が流れないよう必死に我慢をしながら、俺は彼女の肩越しですんっと鼻を鳴らした。



「ねぇウキョウ」

「ん?なに?」

「お誕生日おめでとう」

「ううっ…」

「ねぇウキョウ」

「ん?なに?」

「泣かせちゃって、ごめんね?」

「なっ、なぁぁぁぁぁー!!!!」



___A crybaby to you, Happy Birthday!
   
   
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