AMNESIA

□for the first time
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浅緑色の、柔らかな髪がハラハラと私に降り注ぐ。
あまりに長いそれは私を閉じ込めてしまう檻のようで。
全てを捕らわれてしまった私はもう、あなた以外の誰も見えなくなってしまいそう。
…そうさせたのは紛れもないあなたなのに、ずるいのね、先に泣いちゃうなんて。

「うっ…うぅ…グスッ…ひっ…」

私に覆い被さる格好のまま泣き始めてしまったウキョウ。
綺麗な顔を歪めて、ポロポロポロポロ涙を溢していた。

「ううううっ」

「ウキョウ、泣かないで?」

困ったように微笑んで、私は彼の目元を指で拭った。

「…うん。うぅっ、ごめっ、ね…」

すんっと鼻を鳴らしてウキョウは頷くと、潤んだ瞳で私を見つめながら眉を下げた。
その危うい笑顔に思わず私も眉を下げると「ううっ、可愛いっ!」と眉間にシワを寄せて彼が唸った。

「あぁもう…本当に君は可愛すぎるよ!」

言うなり私へと軽めのキスを落として、そのまま二人の恥ずかしい姿を隠す唯一の掛け布団を頭上まで引き寄せたウキョウは、私を巻き添えにベッドの中へと潜り込んだ。

「はぁ。でも、まさか泣いちゃうなんて、俺ってやっぱり乙女なのかな…」

潜り込んだ布団の中で優しく私を抱き締めながら 、自身をそう揶揄してウキョウは苦笑した。
この場合そんなことないよって言ってあげるのが正しいのかな…なんて事を少し考えたけれど、正真正銘乙女であるはずの私より先に泣いてしまった事実を思えばそれも難しい。

「…ふふふ」

「えっ、何?」

「ううん。ウキョウ、可愛い」

「はっ?えっ?俺が?」

触れ合っていた肌を少しだけ離すと、困惑気味の瞳を揺らしてウキョウが私を見つめた。

「ちょ、ちょっと待って!確かに髪は長いけど俺は男です!可愛いはちょっと…。それに可愛いのは君の方でしょう?」

むうっと少し頬を膨らませてウキョウは反論してきたけれど、それすらも可愛いと思わせてしまう行為だという自覚は彼には微塵もないようだった。
でも、そういう所が可愛い、なんて本音を言ってしまえばきっと今以上に拗ねてしまうだろう。
言葉では上手に伝えられないこの想いを、私は唇を重ねることでそっと伝えた。

「ウキョウ、大好き」

唇を離すと、固まったまま微動だにしないウキョウが焦点の合わない瞳で私を見つめていた。
「ウキョウ?」と声をかければ綺麗な顔はみるみるうちに歪んで、せっかく止まっていた涙がまた溢れ出してきた。

「…っ。ごめん、ごめん。泣いちゃう、なんてっ…ホントに、俺はっ…っ、うっ…あっ」

「うん。大丈夫よ。ウキョウ」

再び泣き出した彼をそっと胸に抱いて、小さな子供をあやすように、震えるその背中を軽く叩いた。
初めて会ったあの日もウキョウは泣いていた。
あの出会いの日から今日まで、私達には幸せなことよりも辛いことの方が多かったのかもしれない。
ウキョウがどんな思いをしてたくさんの私と出会ってきたのか、私には聞かされた話から想像することしか出来ないけれど…。

私はさっきよりも強い力でウキョウを抱き締めて、その名前を呼んだ。

「ウキョウ」

浅緑色の、柔らかな髪に顔を埋めて、もう一度呼んだ。



___ねぇウキョウ、ずっとずっと、愛してる。





【said heroine END】

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