クリスマスイベ

□ランキング報酬鈴木
1ページ/2ページ

ソファに座っていた三宮がやにわに口を開いた。



「鈴木」

「はいはい」

「明日、屋敷に泊まれ」

「は?」

「お前はどうせそれらしい
クリスマス等過ごしたことが
ないだろう」

「少しは一般的な感覚に寄り
添えるように努力しろ」

「……何で」

「俺の下で働いてるのだからな…
相応に自身の価値を高めろ」



命令口調ではありながら、
三宮の顔は微笑んで
いるように鈴木は見えた。

そうしてゆっくりと、鈴木の
頬に触れる。



「ああ、俺の帰りは遅くなるが、
起きていろよ」

「…寝室まで来い」

「はっ…はぁあ?」



それはつまり、クリスマスの夜を
共に過ごせと言っているのだろうか。

こいつは気が触れでもしたの
だろうか。そう思い過ごそうとは
するけど…

三宮の手のひらの
熱が体中に広がって、鈴木は
耳まで紅潮させてしまう。

それどころか…視線を感じれば、
体まで反応しそうになる有り様。



「勝手は許さんからな」

「…別に。命令ですから、
逆らったりしませんけど」



努めて淡々と返事をしようと
する鈴木。

ークリスマスの夜を共に過ごす
相手が三宮だなんて…

どうしてこうも馬鹿げた状況を
喜ぶ自分がいるんだろう。

自問してみるが、それは益々
自身の体を昂らせるだけだった。




クリスマス当日−−−の休憩時間。

いつもなら口にするはずのない
であろうご馳走を…それも豪華な
クリスマス仕様の料理を、

三宮の計らい
によって食べられる事になった。




「…」

「んー美味しいねえ」



しかし、特別美味しいであろう
この食事も、鈴木の舌を
喜ばせることはない。

まともな味覚が育つような家庭
環境ではなかったのである。

もそもそと、無言で料理を
口に運ぶ鈴木。



「でも何で俺達の分まで作って〜
ってご主人様、言ったんだろうね」



今日の食事は普段三宮が
食べるような豪勢なもの。

それをわざわざ、この日屋敷に
いた執事全員に作らせたらしい。



丸山
「クリスマスプレゼント、って事
だと思いますよ。感謝の気持ちを
こめて…みたいな」

「ご主人様イッケメ〜ン!」



昨日のアレは、自分に対してだけ
ではなかっったのか…?
ど、いう思いを馳せるが、

それでも宿泊する執事はたしか
自分だけのはずだった…

と橘からの連絡事項を思い
出しどこかホッとする。

沈んだり浮かんだり、忙しない
自分の感情についていけない。



「あっ、これ美味しい!
丸山さん、まだある?」

「あ、ちょっと待ってくださいね。
もうちょっとで第二陣が焼き
上がる頃…」



期限よく給仕をする丸山をチロリ、
と鈴木は眺めた。



「えっと……鈴木さんのお口に
合うものは…ありましたか?」



鈴木があまりに仏頂面で食事を
摂る為、

丸山は自分の料理が不味かったの
だろうか、と心配そうな顔を
している。



「あー…美味しい、ですよ」

「ほんとですか?…あの、好き
嫌いあったら言ってくださいね」

「簡単なものだったら今からでも
作れますのでリクエストも
歓迎ですよ」



鈴木の適当な相づちにも丁寧に
対応する丸山。

きっとあの人の良さそうな顔で
笑う丸山と自分は真逆の環境で
あったに違いない。

鈴木は自らの思い出を振り返り、
頬杖をついた。



(…クリスマス、ね…)



クリスマスの思い出…
ロクなものがなかった。

そもそもあの母親は子供のために
プレゼントを買ったり、クリスマスを
祝ったりする女ではないし

彼女の連れてくる男の中にも、
そういった一般的な考えをもつ
常識人はいなかった。



(…あいつが結局一番マトモって)

(俺って、どれだけアタリ
悪いんですかね…)



あいつー義父である徳蔵の事を
鈴木は思い返していた。

これまで母親が付き合ったどの
男より知的で穏やかで良識的
だったのである。

勉強を見てくれたり、手料理を
ふるまってくれたりしていた。

でもそれは、下心のある優しさ
であり、父親としてのソレとは
かけ離れたオゾマシイものだった。



(…………)



もはや、徳蔵が自分に手を出して
きた事を思い出しても、何の
感慨もない。

悲しくもないし、嫌悪感すら
沸かない。ただ虚しくなる。




「やっぱりクリスマスって
いいもんですよね」

「…そうなんですか?」

「俺は正直キリスト教とかじゃないし、」

「こんな行事お金儲けに使われてる
だけだーって言う人もいるけど」

「七面鳥なんて普段食べないものを
みんなで食べて…皆で同じように
クリスマスに感謝して、乾杯する」

「毎年、クリスマスが近づくと
あー今年もくるなぁ、って幸せな
気分になります」

「あ〜なんかそれ解る〜。うちも
ねえママが結構クリスマスに色々
したがるから」

「毎年恒例、みたいになるのが
楽しいのかなー。待つ感じが
ワクワクする、みたいな」

「………………」



丸山と三日月は互いの楽しい
クリスマスを頭に浮かべながら
会話に華を咲かせていた。

それでも、今日は無い思い出に
虚しさを募らせるばかり
ではない。




(待ってるワクワク…ね)

「俺の帰りは遅くなるが、それまで起きていろよ」




鈴木は三宮の命令を
思い返しながら二人のやりとりに
少しだけ共感する自分がいた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ