novel
□グサッ!
1ページ/1ページ
人類、生物共通の思想
負けるのは怖い
何に対しても
絶対に絶対に勝たなければならないハフトゥー的な勝負が人生の中には幾つか有って、その内の一つが今この瞬間なのだろうと思いながら手の中で広がる七枚を
まるで射殺そうとでも言うように睨み付けた。
勝つのも怖いなんて事
要するに、引き分け希望
そえいうのも有り得るんだって、ついこないだまで知らなかったのに知らなくて良かったのに何でまた今更に成って、こんな。
「抱いてあげても良いよって話じゃないですか?逆はありえないし。」
ンなこたぁ分かってる
分かってるから困ってんだよ察しろよ頼むから読み取れよ
あ?…いやいや別にプライドとかじゃねぇから。逆は無いって断言は癪だが。そ、…あぁそうだよ
つーかお前、結構えげつないのな。
推定年齢幾つだよ。
…うっわ、生意気な15才。
「恥じらった方が貴方好みですか?言葉責めマニア?」
何だそりゃ。
いやいや結構です説明しなくて良いからそういう意味じゃねぇし。
あ、…ちっ……ダイヤのA返せよお前。あぁそうだよ其れが合ったら揃ってたんだよクソ。
イカサマしてねぇだろうなぁ?
人聞きの悪いってお前の本性よりも悪いもんねぇだろ
扇形に広げたトランプと
広げる程の枚数すら無いトランプと
互いに引き合って
単純なゲーム
だからこそ裏で手を回されりゃ叶わないし実力がもろに反映される
表情が読めない
増えていくカードと
減っていくカード
計53枚に左右されるのは、
「ほら、何が欲しいか言って下さいよ。僕を満足させられたらあげても良いですから。ね。」
参加者二名プラス一人の
不幸か優越をもたらす
人生の価値観
こっちが場の雰囲気に合わせようが合わせまいが双方にとって大した問題では無くて、要は勝つか負けるかの戦いの中で培われる緊張を解してやろうとの小さな気遣いによるもの。どちらも相手が負ける事を予想しているから気休めだとしても数刻くらいは夢を見させてやろうなんて考えてやがる。
思い上がりも甚だしいと言やぁ其処までだが、何故そんなにも大きく出るのかなんて訊かれたら返す言葉は一つだけ。
俺もアイツも多分同じ意思。
自信なんか端から存在しない
有るのは、恐怖。
だからこそ、弱いからこそ、
吠えて威嚇してみたり
冷静ぶって余裕みせたり
あー忙しい
欲しいものなんざ訊かなくても分かんだろ。だから勝負してんだ、それが欲しいから。物的代名詞じゃ失礼だって?ンなもんトランプで奪い合ってる時点で手遅れだろ
「…別に、僕は奪ってませんよ。君の邪魔をしたいだけで。」
引いて、シャッフル、場に戻すの繰り返しは
引き分けを許さない
最大の賭けに向けての流れ
貴方が好きです、と
言った瞬間とまったく同じか若しくは其れ以上の笑みを浮かべて悩みもせずにカードを引いた
「別に生産性要らないんでしょ。だったら僕でも良いじゃないですか。」
あ?
「…次神田ですよ、さっさと引いて下さい。」
押し出された二枚のカード
見える筈も無いのに裏側から透視せんばかりに意識を集中させて
向かって右か左か
直感にまかせて引いたのは
何にも属さぬ種類の図柄
ピエロ模倣をした切札
不気味な
「ジョーカー。」
相手がニヤリと口角をつり上げて俺が数枚のカードを放り捨ててゲームは終わった。知識も何も必要ない運だけの試合はスポーツマンシップなんざ知ったこっちゃないとばかりに好き勝手遣りほうだいで、正しさなんてものとは到底無縁だったけれど。
そうでもして勝ちたかったのは人生が掛かっているから
比喩じゃない
「じゃぁ僕の勝ちなんで。文句言わないで下さいよ?」
本当に変わってしまう
「早速行ってきますけど一緒に来ます?」
あぁ、そうする
「分かりました、行きましょ?」
終わる終わる
人生が変わってしまった
俺の敗北で人生が変わってしまった
アレンの勝利で人生が変わってしまった
ジョーカーのジョーカーの!
トランプゲームの53枚
「…ほら、泣かないで。幸せにしてあげるから。」
泣いてねぇし。
個体名ラビ、の命が
あと数分で閉ざされる
欲しかったのにな、ラビ。ごめんなラビ、断末魔は録音してやるから。安らかに。
間違えたのは引くべきカードの選択か、
或いはゲームに乗った事か
(貴方が勝ったらラビをあげます、僕が買ったら君を下さい)
(何でテメェにやらなきゃなんねぇんだ)
(…あ、でしたら。ラビを殺させて下さい)
それなら良いと。
本人の居ない前で俺達二人は珍しく意気投合した
ラビが殺される。
アレンに殺される。
悪いな、俺のせいで
fin.