novel

□過酷なのは今までじゃなく
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梯子をつたって
消えたのは
何だったかな。


僕らには僕らが必要だった
手を伸ばして堂々と触れる
そんな何かが必要だった



水の中で息を吐いて
苦しくなったら顔を上げる
落ち着いたらまた気泡を生み出す
そんなそんな生活を送っているのは
戒めでも何でも無く


そうでもしないと生きられないからだと気付いたのはずっと前。
認めたくなかっただけなんだと誰もが分かっていたけれど分かって
いたからこそ、
口に出す人なんて居なかった。


「こっから落ちたらどーなんかな?」


二十歳に満たないエクソシスト四人は楽しくなくたって笑える、そういう術を身に付けた。
それは精神を守る為だとか今後の明るい未来を期待してとかじゃなくて唯、
そりゃもう単純に


「いけっ、神田。」
「お前がな。」


世界を見下したユースカルチャーの成れの果てだった。

「つまんないなぁ。」


僕らにとって世界はとても大切で其処に住まう人々も大切で、誰もが自分の力だけでは生きていけない事だって分かっている。それでも僕を含めた四人にとっての此の瞬間は欠伸の出るほど詰まらないものの代表であり。
ラビなんかは実際目尻に浮かんだ涙を指先で拭った。
退屈さーなんて言いながら伸びまでして完全に寛ぎモード。

「じゃぁ落ちて下さい。」
「いやいや繋がんねーから。」
「落ちろーラビお前なら出来る筈だー。」
「ユウ〜〜〜?!」



一斉行動の合図を

“せーの”にするか
“いちにのさん”にするか


「ね、今何時?」
「十四時五十一分。」
「ありがと。」


世界よりもそっちの方が僕らにとっては余程重要だった。
現実にそんな議題で話し合い白熱させた事なんて無いけれど。
僕らにとって平和や安穏はいつの間にか恐怖の対象と成っていた、だって仕方ないじゃないか戦う事しか知らないのだから。あんな悲しい戦争は早く終わって欲しいと願い其の為に尽力して来た
寝る間も惜しんで
命さえも掛けて必死に


奪い奪われ
傷付き傷付け


それこそが正しいのだと、終焉を防ぐのだと。


「あ。」
「あら、アレン君落ちたいのっ?」


嬉しそうに、じゃないか。楽しそうな勘違いにちょっと閉口。
ラビも神田も何でそんな期待の眼差しを向けているのかそんなに僕に死んで欲しいのか。
何なんだ。

道連れにしますよ、の代わりに
別の言葉。


「…AKUMA、かな。」
「え、何。今日の夕飯が?」
「レベル1入りのブイヤベース。」


左目が察知したAKUMA郡のスープを想像して、直後後悔。
ラビもリナリーも顔を顰めているから二人もきっと神田の発言の被害者なんだろう。と言ってもラビのボケも多大な影響を及ぼしているから彼に対しての同情の余地は無し。

よし夕飯には一切スープ系は頼まないぞ…と誓ったのは
AKUMAの破壊ならびに魂の救済を決心する直前


「ほい、掴まって。」


ラビに誘われる侭に巨大化された鉄槌の柄に四人で掴まった。
時計台の屋上の端で八本の手が同じものを握っているのは何だか滑稽な感じでもある。まぁ誰にも見られはしないから構わないか。


自分も含めた全員の存在を確認して直ぐ、
斜め下へと一直線にに急降下


「落としたらごめんさー。」


伸の効果は自由自在だった。


「アレン君。食材…じゃなかったAKUMAどっち?」
「一時の方角です。微弱なので大した数じゃないと思います。」


神田は右手で六幻を構えて
僕は左手の武器をそのまま


「居たさ!」


地面よりも未だ大分高い位置から飛び降り様に二体のレベル1を破壊。調子に乗って早く降りすぎた所為で衝撃を吸収し切れなかった踵が痺れる。
神田は何とも無いようで悔しいかったので僕も平然を装ってみた。

伸での移動自体が大分長い距離だったので、さぁ落ちろと巫山戯けてたけど実行してたら即死だった。改めて何て話をしていたをだと突っ込みたくなったのは僕だけで、後の三人は気にも留めてないんだろう。どうせ冗談だし。
誰も死にたいとも死んで欲しいとも思っていない。


「イノセンス、はっつどー!」


語尾に星マークでも付きそうなノリで僕ら四人は破壊を楽しむ。
いや違う
別に楽しくなんかない。
ただただ戦う事に居場所を見出しただけなのだと分かっている。

たった12体程度のスケールでも、此の時代でしか生きられない僕らにとっては十分に必要な状況。

梯子から落ちた、モラル。
僕らはいつからか壊れていた。
誰も止められないうちに。


「はい、完了。」
「早っ。」


僕らは生き延びる事よりも
生き抜く事を望んでいる


「じゃ、帰りは徒歩で。」


戦争の最中、
使途として朽ちる事を願った。


「役立たず。」



終戦間際
平和に怯える弱者の境遇は


きっと。



fin.

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