novel
□O,lover mine!
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北部に位置する教団でも暑いもんは暑いんだと思い知らされる夏。
しかも団服が黒だから視覚的にも余計暑くて救えない。
しかも前日の雨で湿度まで上がってるもんだから何かもう死ねそうだっつーか逸そ殺して楽にしてェェ!
「よっしゃ御望み通りにっ!」
ザクッ!
「ぎゃぁ――ッッ?!」
思わず挙げてしまった絶叫はきっと教団中に響いたんじゃないかってくらいの大音量。
だ…っ、ちょ…六幻…!
髪何本か持ってかれたんですけど。反射的に身を捻ってなかったら顔面から刀生やした状態に成ってたんですけど此所は俺……達の部屋なんですけどっ
「何しやがんさユウ!」
「あ?死にたいって言ったじゃねぇか男の癖に二言かよお前サイッテー。」
ブレスも抑揚も無しに言ってのけて、ノックという礼儀も知らない不躾なエクソシスト様は人の部屋でさも当たり前のように寛ぎ始めた。
言葉の綾ってもんを知らないのかとか事実で受け取ったにしても嬉々とし過ぎなんじゃね薄情者、だとか色々言ってやりたい事は山ほど有ったけども。
そんな事よりもユウが初めて自分から俺ンとこに来てくれた記念を噛み締める方が先決だった。
だってこんなの奇跡じゃないか。
予め招いていた訳じゃない本物のサプライズ。こんな感動が味わえるのなら髪の数本や壁の穴なんて如何ってこと無い、むしろ大歓迎。ウェルカム身の危険。
当初の驚きや動揺を乗り越えてしまえば細かな部分も認識出来るように成って来る。
例えば長い髪を大きなピンで留めてるからこそ見える首元が色っぽかったり。少しだけ丈の折られたズボンから覗く足首が白くて細くて綺麗だなぁ、とか。
ダメだ今すぐ押し倒したい。
昼間だろって?
気にすんな。
ユウに嫌われるぞって?
それは困る。
「はぁ〜〜。」
「どうしたよ?」
自分のヘタレ加減に頭を抱えている俺を見て首を傾げながら、ユウは背後の壁に遠慮なく突き刺した愛刀を抜いてパラパラと小さな破片を撒き散らした。
君の色気に当てられてセックスしたく成ったんですけど勇気が無くて誘えないんですよ僕の悩み聞いてくれますー?……なんて。
言えるかチクショーっ!!
「いやさ、暑いからクーラーある所行かね?」
二人きりだから変な方向に思考が向かうのだと結論付けた俺は、長い溜め息の原因を気温や湿度に転嫁して何とか場を誤魔化そうと必死だった。
まぁ必死にならなくても元々ユウの他人に対する興味関心なんて高が知れてるか。
「今は食堂も談話室も涼しかねーよ?」
「へ……あぁ人口密度高いから?」
雑多に並べられた書類のカーペットを適当に手で退けて、邪魔に成らないように刀を脇に置いてユウは何の遠慮も無しに胡座を掻いた。それでも文句の一つも言えないのは惚れた弱みか単純にユウが怖いからか。
ちょっと拗ねたような口調に可愛いと思いつつ、あぁユウは人多い空間苦手だからな、と妙に納得して少しだけ笑ってみた。
確かに此所はちょっとだけ涼しいから。
「別に。俺が空調の配線切っただけ。」
あれ?
この子、……悪魔?
「何でそんな事…?」
人が集まっててクーラーが無い場所なんて夏場は地獄だ。今頃みんな屍と化してるんじゃないかと、ユウの残虐性をうっすら垣間見つち俺は内心で想像上の被害者に合掌した。
悪戯と言えば雰囲気ばかり微笑ましいが、其れは俺が今自室に居るからこそ抱ける感想だろう。
っていうか本当に何がしたいの。
「……食堂は、位置的に直射日光だから。」
「へ?」
「…木判使って雲移動させて貰えば日差し遮って涼しいかもなぁって……。」
むぅ、と唇尖らせて剥れる。
手持ちぶさたに近くに撒かれた紙の端を折り曲げるのを見ると此れ以上の説明は望めそうに無い。
名前を読んだら軽い舌打ちで返された。
何だ如何したと渦巻く疑問は、次の一言で瞬時に解消。
「人の恋人の話で盛り上がってんじゃねぇよ愚民共……。」
眉間に皺寄せて、此所にいない大勢に向けての其の本音がどれだけ俺を喜ばせるか。
ねぇ、知ってる?
「ふふ…っ」
「笑うな。」
真っ赤に成って俯く彼にも、其の感情が何と名の付くものか分かっているんだろう。命令口調でも迫力はゼロ。
用も無いのに遊びに来た理由は此れかと思えば、馬鹿にする気なんて毛頭無いけれど勝手に緩む口が抑えられない。
今なら押し倒せないけどキスは出来るかなって、
「…ん、……」
考えるより先に実行した。
柔らかくて、仄かに甘い感じがして。幸せ。
「今頃きっとみんな泣いてるさー。」
「知るか。お前が笑ってりゃそれで良い。」
うん、激しく同感。
俺達はいつでも互いが優先。
――――――
「狡いって思った?」
「……内緒。」
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