novel

□優先事項
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「あれ、背ェのびたか?」


え、何……俺は久しぶりに会った級友かなにかですか。違ェだろ。
俺達そんなほのぼのとした間柄じゃねぇだろ状況的も何かそんな雰囲気じゃねぇだろ。だって戦ってんじゃん!今まさにノアとエクソシストの決戦真っ最中じゃん!
君のお友達も今屋根の下で命懸けで頑張ってるよ。え、友達じゃないって?あ、そうですか。
かなりのスピードで降り下ろされる刀の連撃を結構楽しみながら流して来てたんだけど、まさか急に身長の話に成るとは思わなかった。もし俺の動揺を誘う作戦だったんなら悔しいけど結果的に成功を納めているし、こっちとしてもまぁ不甲斐ないまでも納得は出来ただろう。けど虚しい事にどうやら素の対応らしい。
わざと余裕を見せて挑発しようとかそんなんじゃなくて、裏表の無い本心から目の前のエクソシストは次の出方や現在の情勢よりも俺の身長の方が気になっている。直前までの刺すような殺気は何処に行ったんだよ。何だお前本当。

「おい聞けよティキ・ミッキー。」
「やめろ、つか頼むからやめて。」

千年公のティキぽん呼びよりダメージでかいなコレ。ってかお前絶対今のわざとだろ。笑い堪えてんじゃねぇかよ。

「…笑うなよ。」
「良いじゃねぇか、ヒヒッ。」
「お前は双子第一号か。」

あーもうやだ。
もう帰りてェ。
だってコイツもう戦闘意欲無ェもんよ。イノセンス解いてるし、他の奴等の様子観戦してるし。俺はエクソシストの殺害だとかイノセンスの破壊だとかそんな感じの仕事をする側なんだ。間違っても包丁遣いくん相手に漫才する為にわざわざ出現してるわけじゃない。それでも無視し切れないのはうちの家族にボケ担当が多いからか。
いやいや俺もだけど。


「馬鹿にしてんの?」
「へ、誰が。」
「お前が、俺を。」
「はァ〜〜〜?」


怖いよ、君。
立場上恨まれたり憎まれたりで思いっきり睨まれるってのは良くある。殺してやるって全身で訴えてるのがまぁなんつーか滑稽で、でも面倒な事には変わり無いから毎回適当に流してるんだけどさ。今のは絶対、敵に向ける純粋な怒りじゃなかった。どっちかと言やぁ、は?お前何言っちゃってんの頭大丈夫病院行けば?的な軽蔑。
ヘコむわ。
仮にも戦闘中だってのに一体何を間違ってこんな事に成ったんだ。
俺の身長が伸びたのが悪いのか?
つーかこの歳で身長伸びんのか?
そこからして色々おかしい気がする。


「…馬鹿にしてるわけねぇだろ。」
「ん…?」
「こんなに好きなのに。」



「は、い……?」


なんか今ものっそい発言聞いた気がする。
え、幻聴だよね。誰かっそうだと言って!
マジでどうしちゃったのエクソシスト君。さっきまでの笑いを含んだ余裕の代わりに、今は切羽詰まったような表情を浮かべて若干俯き気味。何かを耐えるみたいに両手を握って、唇は真一文字に閉ざされて……えっと、なんかギャップが……待て待て待て落ち着け俺!流されてるぞ俺!
罠だ、これは卑怯かつ巧妙な罠なんだ。耐えろ、耐え抜け。
傷心した面持ちでの上目遣いがクるなんてのも俺の思考回路が惑わされた事による幻想に違いない。
大体コイツは本来倒すべき敵じゃねぇか。…そして根本的な考えでいえば男同士じゃねぇか。

「無理じゃないの。敵同士、男同士。使徒にとっちゃ二重の禁忌。」
「それは常識論だろ。俺が聞きたいのは世間の主観じゃねぇ、アンタ個人が良いか悪いかなんだよ。」

強い口調ではっきりと断言されて思わず呆然としてしまう。おずおずと伸ばされた手を通過させるのも容易だった筈なのに、俺は敢えてそれを選択しなかった。


「お前は何をしたいわけ?」
「何って……?」

通じてねぇし。
質問を変えようか。

「お前は俺に何をして欲しい?」

戦闘スキルや勘は全く関係の無い時限で働いているらしい思考を探るのも億劫だ。言うことに欠いて好きってお前、何を何処で間違えたのか見当も付かない。嫌われるべき言動になら覚えは有るがその逆には皆目心当たりは無かった。
ロードも白髪少年に好意を寄せては居るがあれはまた別の枠組みでの話だろう。流石に戦闘中に武装放棄するような真似はしないし、異性同士だし。


「してくれんのか。」
「……さぁ、な。」


あれ、何だコレ。
更に絆されてないか俺。
雲行き怪しくないか俺。

いや、待て落ち着け自分。
曖昧な返事は相手をはぐらかすとか何かそんな意味合いを持っているんで在ってけっして心が揺らいでるとか有り得ないから、気をしっかり持て。幾ら綺麗な顔立ちしてても男だぞ男、見た目十代の東洋人よりもっと良い女居るだろうがあぁでも顔は好みかもって何なんだよ本当何なんだよ!
心理攻撃か。そうなんだな。
誰かそうだと言ってくれ。



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