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□絶対的支配者
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「「あの、何かもう本当すいませんでした。悪気は無かったんです、二度としないんで許して下さい助けて下さいお願いします神田様ァァァ!!」」





まるで台本付きで練習でもしたかのように息を揃えて其の懇願は教団の外側から遠くに見える森へと響き渡った。
今現在、ラビとアレンは神田によって教団の外壁へと縫い止められている状態。
正確な標高は分からないがそれでも地面に叩き付けられれば即死、或いは空中で既に命を落としてもおかしくはない高さである。


「ちょ、マジこれ死ぬって!ねぇユウごめん助けて!!」
「ね、神田。反省してますから!ちょっとあの瞬間はテンション狂ってただけなんですっ!」



生きるか死ぬかの瀬戸際で二人のエクソシストは必死に助けを求める。

朝、何故か妙な肌寒さに目を覚ましたアレンとラビは、自分達の着る団服を通して教団の外壁へ深々と突き刺さっている短刀の存在に呆然とした。地面に足も着いていない。
団服の生地は防御性に富んだ特別な生地を使用している為、そう簡単に破れる心配は無い。だが知識として頭で分かっているとは言っても、それなら安心だーなどと続く筈もなくて。
再認識しながら恥も外聞も捨てて現在の絶対者である神田へと命を乞うた。


死にたくなかった。


「…もうしませんって、何度言うんだよ。ん?ねーこれ何回目?」

自力で避難出来ないようにと奪ったラビの鉄槌を指先でクルクルと回しながら、屋上から二名の生け贄を見下ろしつつ神田は大輪咲きの笑みを浮かべた。
屈んで手を伸ばせばアレンとラビにとっての命綱役でもある刀に手が届く。それさえ抜き取れば彼等の身体が重力加速度に従うスピードで地面へと爆進するのは確実。


「あ、こんな所にいたっ。神田ー!」
「あ?」

聞こえて来た救世主の声にアレンとラビは必死に成って自分達の存在をアピールした。
きっと彼女なら神田を止めて自分達二人を助け出してくれると信じて、一生の忠誠を誓う勢いで声を振り絞る。


「リナリー!!」
「助けてさーーっ!!」


前の景色しか見られない現在の状態では屋上の様子は分からない。
それでも此の一時間に及ぶ責め苦から解放されると疑わずアレンとラビは内心胸を撫で下ろしていた。


「今のアレン君とラビ?」
「あぁ、」
「ふぅん。そんな事より次の任務なんだけど…、」



この一言を聞くまでは。



「…今のお前らの状態、リナリーの提言だから。」


あまりに予想外な結末にクエスチョンマークを乱舞させている二人に神田は容赦無く事実を吐き捨てて、提案者である少女と共に声をたてて笑ってみせた。


「…ごめんね二人とも。」


両手を顔の前で合わせてすまなそうに片目を閉じる、其の声に誠意は籠っていたけれど実際に助け出してくる予定は無いようで。
遠ざかっていく二人分の足音の反響にに絶望を感じ、せめて天気だけは悪化しないようにと祈る他には無かったのである。





「…………」
「アレーン、大丈夫さ?」
「……お腹空いた。」


ぐったりと項垂れるアレンにはきっと上空に浮かぶ白い雲は食べ物として映っているのだろう。
あ、なんかあの雲フライドチキン見たいだ。
何て考えてたら二人同時に腹が鳴るもんだから此れまた同時に項垂れて。

あぁ、何か料理の匂いまでしてきた……。


「良いよな〜ティムは、」
「本当本当。ゴーレム何だから食事しなくたって良いしさー……」

アレンのフードから出て来た、今の自分達とは違って自由に飛び回る事を許可された金色のゴーレムに羨望して……





………ティムキャンピーッ!!



何で思い付かなかったんだろう。
この際もう誰でも良い、有料だって構わないから早く自分達を救出してくれ。
地面を歩きたいんだ。
重力の有り難さを知りたいんだ。
そして朝食が食べたいんだ…っ。


『ジ、ジ……はい、もしもしー…あ、…アレン君とラビ?』
「コムイさん!あの、」
『大丈夫?』


あれ?え……あれ?
何かおかしい。

普通此の場合だったら如何したの、何かあったの…じゃないのか?
あんなまるで、自分達が一見して大丈夫では無い状態にある事を既に知り得ているような。
いや、そもそも此の状態を作り出したのは神田だがアイディア自体はリナリーのものだ。
そして現在の通信相手は其のリナリーのお兄様。


「え…コムイ………?」
『…ヘブンコンパス、マリの弦。』


自分達には敵ばかりなのだろうかと冷や汗を浮かべるラビとアレン。そしてそんな彼等の耳に届いた技名の大まかな共通点は。
主要な攻撃要素では無くて、副次的に現れる効果と言えば。


「ま、さか……」
「ウソだろ…有り得ねーさ……っ」


いや、一概にあり得ないとも言い切れない辺りが恐ろしいのだが。


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