小説(本文用)

□君がそこにいさえすれば
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灼熱と極寒が相まみえる島、パンクハザード。かつて政府の大将2人が決戦を繰り広げた土地。
人の立ち入りが禁止された場所で、科学者シーザー・クラウンの野望を阻止した麦わらの一味と『王下七武海』トラファルガー・ロー。
海楼石の手錠をかけられたシーザーは意識を失ったまま海軍の船へと連行された。
シーザーの後ろ盾であったヴェルゴ中将は逃亡を謀り行方不明。ただ、間違っても海軍には戻れないだろう。

「よし、じゃあお前の診察は終わりだ。後から薬を渡すから先に船に乗ってろ。次の子、どこか具合の悪いと感じるとこあるか?」

シーザーたちによって攫われていた子供たちは解放され、それぞれの故郷に送り届けられることとなった。
とはいえ、海賊であるルフィたちが送り届けるわけにもいかないためそこは政府の力を借りることになった。

『…海軍として、まずは攫われた子供たちを故郷に送り届けるのが優先だ。お前らの捕縛はその後だ。』

そう言い出したのは驚くなかれ、『白猟』スモーカーだ。つまりは見逃してくれるということ。
もちろんG-5の他の海兵たちは反論する者もいたが、スモーカーとたしぎの説得(というよりはほぼ弾圧)により今は全員が協力して必要な作業に当たっている。
しかし覚醒剤を投与されていた子供たちをそのままにするわけにもいかず、応急処置としてチョッパーが診察をすることになったのだ。

「チョッパー、疲れたなら少し休んだ方がいいわよ。」
「そうですよトナカイさん。子供たちはもちろんですが、診察しているあなた自身ケガをしてるんですから。」
「平気だ。ロビンと…えっと、女海兵の…。」
「たしぎです。」
「あ、そうそう。たしぎも手伝ってくれてるし子供たちはずっと辛い思いをしてきたんだ。少しでも早く身体を診て安心させてやりたい。」

子供たちの診察を申し出たのは他ならぬチョッパー本人だ。ルフィたちの治療はすでに終わっており子供たちを放っておくなんてできなかった。
G-5の医師は仲間の診察で手いっぱいで、トラファルガー・ローたちは研究施設の後始末だとかで手が離せないため彼がひとりで診察せざるを得ない。

「…一時的にとはいえ、こうして海賊と協力し合うなんて不思議な気持ちです。」
「私もよ。目の前に政府の人間がいるっていうのに逃げなくていいなんて変な気分だわ。」
「…アラバスタでのあなたとのことは、過去のこととして受け止めることにしてますから。」
「そうしてもらえるとありがたいわね。」

チョッパーの補佐として、ロビンとたしぎには薬の調合などを手伝ってもらっている。
逆にフランキーをはじめ、船の構造に詳しい麦わらのクルーがG-5に借り出されている。ローに大破させられた海軍の船の修理のためだ。

「おーい! チョッパー!」

修理を手伝っていたウソップがこちらへ走ってくる。手にはお盆のようなものを持って。

「あれ? ウソップどうしたんだ?」
「船の修理が一段落したんで休憩だ。喉乾いたろ? お前も少し休めよ。ほら、子供たちの分もあるぞ!」
「わー! お兄ちゃんありがとう!」
「喉乾いたー!!」

子供たちはウソップの周りを取り囲むように集まり、それぞれオレンジジュースの入ったコップを受け取った。

「これじゃあ休まざるを得ないわね、チョッパー。」
「子供たちも喜んでいることです。一息いれましょうよ。」
「…しょうがないな。」

2人にも促され聴診器を首にかけると、ウソップから飲み物を受け取った。薄く濁(にご)ったそれが喉を通ると、サンジが特別に調合してくれた疲労回復のためのものだとわかる。
子供たちのものとは違い、味こそ水にレモンを加えたようなものだが飲んだ後は文字通り身体が元気になるようで一所懸命に動いたあとのこれはありがたい。
サンジの気遣いだろうか、ロビンとたしぎには同じ色のドリンクではあるがコップの端にオレンジとチェリーが添えられていた。

「おい、そういえばナミはどうした?」

自分たちの航海士の姿が見えないことに気づいたウソップはキョロキョロと辺りを見回す。

「ナミならこの島の気候を知りたいって言ってたぞ。」
「おそらく島の周辺を見て回ってるんじゃないかしら。」

ふーん、とウソップは遠くに見える雪山を見た。
船の修理も、子供たちの診察も人では足りているからそれは何ら問題はない。
ベガパンクが生み出したとされるドラゴンは全て倒したはずだし、こんな辺境では危険生物もいないだろう。

「じゃあまあ、そのうち戻ってくるな。俺は船の方に戻るよ! トレーは置いておくから飲み終わったらコップ置いとけよ!!」

そう言ってウソップは足取り軽やかに走っていた。
子供たちは手渡されたジュースを美味しそうに飲んでいる。ゆっくり味わう子もいれば、一気飲みでもしたか既にグラスが空の子もいる。

「よし! お前たち診察を再開するぞ! ジュース飲み終わった奴は順番に来い! あと診察終わった奴はこのメガネの女海兵さんの指示にしたがってくれ!!」
「はーい! ありがとう、タヌキのお医者さん!」
「トナカイだ!!!」

怒るチョッパーをよそに子供たちはそれぞれの行くべき場所へ走って行く。

「さあ! もうひとがんばりしましょう!」
「ええ。そうね。」

そうしてまたひとり、チョッパーは目の前の子供の生きた鼓動に耳を傾けていくのだった。
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