小説(本文用)

□きっと嘘なんてない
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まだ日は高いというのに相手が敵でないと分かれば当然の如く宴を始めるのが麦わら海賊団で、その先陣を切るのは天真爛漫な船長に他ならない。
九蛇も想定の範囲内なのか、今回の宴会用に全ての食糧、酒類を用意してくれていた。おかげでサニー号の食糧は一切手をつけることがないため今後の航海も予定通り進めそうだ。

「ナミすゎ〜ん♪ ロビンちゅあ〜ん♪♪ 彼女たちと美味し〜〜い料理を作ってくるから待っててね〜♪」

石化から解かれたサンジがそれはもう嬉しそうに向こうの船に渡った。
以前にサンジの料理を食べた九蛇のクルーたちがとても気に入ったようで、ぜひ今回もと頼み込んできたのだ。
今回は九蛇の船で宴を行うこととなり、ルフィたちはすぐに向こうに渡った。

「ヨホホホホ〜。相変わらず目が飛び出るような歓迎ぶりですね〜! あ、私飛び出る目はないんですけども!」
「ガイコツが喋ってるの巻…。前に見た時は信じられなかったけど…。」
「生きてるの? ホネだけなのに? どうやって?」

実はこうやって九蛇海賊団が現れて宴を始める、というのは今回が初めてではない。
過去にも二、三度、予告なく突然現れてはルフィたちを驚かせていた。
もちろんブルックともその都度顔を合わせているのだが、さすがにガイコツという風貌には慣れることはできないようだ。

「や〜ん!! 相変わらずカワイイわチョッパー!!」
「私も! 私もダッコさせて!!」
「お、お前ら俺はペットじゃねーんだぞコノヤロー!!」

反対側では別の意味で揉みくちゃにされているチョッパーがいて、辛辣な言葉とは裏腹にその顔は破綻(はたん)している。
人間の女には興味がないはずのチョッパーだが、それでもこうやって抱き絞められたりするのはむしろ嬉しいようで。

「そういえばロビン、ゾロとフランキーは?」
「フランキーなら船のメンテナンスをしてから来るそうよ。前の戦闘で被弾した部分の確認ですって。」
「あ、なるほど…。」
「ゾロはあっち。」

そう言ってロビンが指さした方に視線を移すと、困ったような戸惑うような表情の男がいた。
その視線の先には日に当たって気持ちよさそうにゴロゴロしている子犬、子猫、子アザラシの姿が目に入る。

(感じていた妙な気配はこいつらか…。)

他人(ひと)の船にどうこう言うつもりはないが、屈強な海賊団の甲板にこんな動物がいるのか理解しかねる。
戦闘員…には、見えない。どう見ても見えない。

(…で、我らが船長は…。)

探す必要もないほどルフィの周りは人だかりができていた。

「ハンコックのやつ、いつもいきなり現れるからビックリするけど宴の用意をしてくれてんのは嬉しいんだよな〜!!」
「…そ、そなたの喜ぶ顔が見れれば良いのじゃ。気にせずともよいっ。」

ポッと頬を赤らめる女帝はその通り名からは想像もつかないほどしおらしい。
しかし肝心のルフィとの距離がかけ離れているのはどうしてなのか。これでは先程の言葉も単なる彼女の独り言になっている。
それゆえ、実質会話をしているのは九蛇のクルーたちなのだ。

「ねえルフィ。蛇姫様と結婚はしないの?」

不意にクルーの1人がルフィに問いかける。彼女はハンコックの気持ちを知っているため、ルフィの想いを知りたいのだ。

「結婚? 何でだ?」
「だって蛇姫様はルフィのこと好きなのに! ルフィは嫌いなの?」
「嫌いじゃねえよ。それにエースのときはスゲェ助けられたし感謝しきれねえ。」
「それならっ!」
「でも結婚はしねえ。」

ピシャリと言い放ったルフィに九蛇海賊団は「え〜!」とブーイングの嵐だ。

「なんだよ! 第一結婚なんて食えねえし意味ねえだろ!」
「ひどいその言葉! 蛇姫様の気持ちを蔑(ないがし)ろにして!!」
「鬼! 蛇姫様に石にされちゃえ!!」

宴も始まっていないというのにすでに盛り上がりを見せるルフィたち。
そんなやり取りを遠巻きに見ていると不意にナミの後ろから声がかけられた。

「ナミ、少し良いかのう?」
「ハンコック…。」

いつの間にルフィのところから動いたのだろうか。気配を感じさせないあたりさすが七武海と唸(うな)らざるを得ない。

「お2人で話した方がいいかしらね? 私はフランキーの手伝いをしてくるわ。」
「ロビン…。」
「すまぬの。」

気にしないで、と微笑んだロビンはサニー号へと戻って行った。
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