小説(本文用)

□向こうで、手招くのは
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ある日の穏やかな昼下がり。
パンクハザードを攻略した麦わらの一味とローは、ドレスローザへ向けて絶賛航海中だった。

「ナミー! ドレス老婆まであとどのくらいだ!?」
「ドレスローザよ、ルフィ! あと1日ってところね!」
「麦わら屋、油断するなよ! 次の相手はドフラミンゴ、闇取引の達人だ。僅かなミスが死に繋がるぞ!」
「おう! ミンゴは俺がぶっ飛ばす!!」
「そうじゃねえ! 工場の破壊が優先だろうが!!」

風は追い風、気候も申し分なし。
次の目的である『スマイル工場』の破壊に向け、準備を整えている最中でもあった。
同盟を組んだ船長同士の、漫才とも言えるやりとりを見るのはこれで何度目だろうか。
気候も安定している。久しぶりに安定の航海ができそうだとナミは感じていた。

「14時の方向! 何か来るぞー!!」

だがそんな平和な時間も、見張りであるウソップの声で事態は一変する。

「敵襲か!?」
「何人だ、ウソップ!?」
「結構いるぞ! 1…2…3…、6人だ!!」
「気を抜くなよオメェら!!」

緊張が走る。
大きな影の上に小さな影が5つ。どうやら何かに乗っているようだ。
かなりのスピードでこちらに向かって来て、サニー号上空に差し掛かったそれが一気に降って来た。向かってくる6つのそれはすぐに形を成してルフィたちの前に現れる。

「――お前ら…! なぜここに…!」
「トラ男、知り合いか!?」
「っ、コイツらは…!」

気性荒く叫ぶのはロー。
その彼の前には、ルフィたちには見慣れぬ数人の影が立ちはだかっていた。

「久しぶりだってのに随分じゃないか、ロー?」
「そうざます! お前は私たちを裏切ったざます。死をもって償うざます!」

緊迫した気配とは逆に、状況が飲み込めないルフィたちは戸惑いながらも警戒を続けた。
縦縞模様にタラコ唇のような派手な男や、一見どこかのセレブ婦人のような女。
メイドのクセに煙草を吸っており、乗り物かと思っていたのは歯にファミリーのシンボルを入れた男で、老人に至っては何と言葉にしていいか分からない。

「ドンキホーテ・ファミリー最高幹部のディアマンテ!」
「ええぇ!!?」
「最高幹部!? じゃあメチャクチャ強いんじゃないのか!?」
「フン、面白れェじゃねーか。外見で判断すると大火傷するってことか。」
「それに配下のジョーラ、ラオG…! ベビー5にバッファロー! お前らどうやって身体を戻した!?」
「若様が助けてくれたのよ。ロー! この裏切り者! 絶対許さないわよ!!」

威勢のいい言葉を投げつけるように言ったが、直後に睨まれて彼女はしくしくと泣きだした。

「な、なあ、後ろですっ転んでんのもか…?」

1人だけ着地に失敗した長身の男を、ウソップは戸惑いながら確認する。

「…ドフラミンゴの弟で、最高幹部のひとり…コラソンだ!」
「ドフラミンゴの弟!?」

ローの言葉に一同がざわめく。
当然のことだろう。これからの目的となる海賊団のボス、その兄弟となれば警戒を強めるのは。

「最高幹部が2人も来るたァ、ドレスローザ到着の前に俺たちを消そうってハラか!?」
「…そうだな。本当なら、お前たちの首をブチ切ってドフィの前に差し出したいところだが…。」
「慌てるな麦わら共! 今日はちGAう目的で来たのじゃ、の、G!」
「違う目的?」

転んでいた黒い羽の男がむくりと起き上がり、近づいてくる。
ピエロのようなメイクと、先ほどのドジぶりは滑稽にも思える反面、ドンキホーテ・ファミリーの幹部の地位を担う腕であることは確か。

「航海士はどこだ?」
「…え、な、なにっ…!?」

突然呼ばれて、思わず返事をしてしまった。
モモの助を抱きしめるながら、なるべく目立たないようにして控えていたのに真っ先に呼ばれるなんて思っていなかったから。
声に反応した男の鋭い視線がナミを射止める。

「麦わらの航海士、“泥棒猫”ナミ。お前は我々と共に来てもらう。」
「…はあああぁぁぁ!!?」

当のナミ本人だけでなく、ルフィたち、果てはローまでもが呆気にとられる。

「ふざけんなこのスットコドッコイ黒カラスピエロ!! 堂々とナミさんを誘拐宣言か!? そんなことさせるワケねェだろ! 何ほざいてやがる! 美しくか弱いナミさんをテメェ等みてぇな奴らに渡すワケねェだろ!!! 3枚にオロして魚のエサにすんぞボケェ…むぐっ!!?」
「ちょっと黙ってサンジ。」

荒れ狂うサンジを能力で塞ぎ、冷静に理由を求めるロビン。

「…ナミを連れて行くなんてずいぶん大胆ね? そしてそれを私たちが素直に受け入れるはずないってことも分かるわよね。どういうことかしら?」

いきなり現れて戦争するでもなく、何を言い出すかと思えば“ナミを渡せ”。
一見、誘拐宣言にも見えるがこれだけの人数を揃えているのにすぐに事を荒立てるような雰囲気はない。

「理由なんて話す必要ないでしょ。大人しく付いて来れば、パンクハザードでの私とバッファローへの攻撃はなかったことにしてあげるわ。」
「テメェには聞いてねェ…。」

再びローに睨まれた彼女は今度こそバッファローの後ろに隠れてしまった。またしくしくとすすり泣く彼女にバッファローもかける言葉がない。

「…本来なら力づくで奪ってもいいんだが、ロー、お前が認めた一味だ。交渉の余地はあると思った。」
「コラさん…!」
「理由がいると言うなら話してやろう。ただし、お前たちが納得しようがすまいが、航海士は連れて行く。」

再びピリリと緊迫した空気の中、ふう…と吐き出された燻煙は、儚く空に吸い込まれていった。
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