小説(拍手用)
□熱に溶ける想い
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女の子なら、幼い頃に一度はやったことがあるのではないだろうか。
「…好き……嫌い……好き。」
ロビンにお願いして、花を一輪、頂戴した。ミカンの花では心許(こころもと)ないからできるだけ花びらの多いものを。
「…嫌い……好き。」
この2つの言葉を何度繰り返しただろう。
花占いなんて十年以上やってないし、今さらこんなことをしたって気休めにしかならないのは分かっている。
「…嫌い……好き…!」
それでも最後の一枚を取るタイミングと、自分の望んだ言葉が同時になれば、ナミはパッと花が咲いたように笑う。
「ロビン! やったわ、好きだって!!」
「あら、よかったじゃない。」
自分が望んだ結果に喜ぶナミを、ロビンは微笑ましく眺めていた。恋する少女は明るく輝いて見える。まして身近な仲間なら尚の事。
乗船したのはロビンの方が後だが、年下のナミには妹のような感情を持っても不思議はない。2人しかいない女同士ということもあって、ナミもロビンには何でも相談してくるのがまた親近感を強めていた。
「じゃあ、さっそく告白かしら?」
「ここここ、告…っ!!?」
「いい結果が出たじゃない。なら次は行動に起こすのみよ。」
占いに満足していちゃダメよ?とロビンは優しく笑う。
告白――その場面を想像しただけでボッと顔が熱くなるのがわかった。
「あらあら、熱でも出たの?」
「…! もう! ロビン!」
「でもホラ、噂をすれば。」
「えっ?」
そう言ってロビンが指差した先を振り返ると、よだれを零して今にもミカンに手を出しそうな我らが船長がいた。
「あ! コラ、ルフィ!!」
「ヤベッ!! 見つかった!!」
つまみ食いを狙う悪ガキから一転、ギョッとした表情に変わったルフィは慌ててミカンにかけていた手を引っ込めた。
「もう! 油断もスキもない!」
「だってよナミ〜! サンジがメシくれねェんだ! 俺腹減った〜!!」
「魚でも釣って焼けばいいじゃない。」
「釣れねェんだよ! さっきから!」
サニー号は珍しく凪いだ海を航海中だ。あまりにも風がないので時折ナミが『天候棒(クリマタクト)』で風を起こすこともあるくらいだ。
「よっ…と。ところでお前ら、何してんだ?」
ナミの他にロビンの姿を認めたルフィは一足飛び、2人の元へ来た。
「女同士の秘密の語り合いよ。」
「女って秘密が多いよなー。俺、そういうの嫌いだ。」
怪訝そうに眉を顰(ひそ)め、言葉のままに感情を露わにする。
ナミはルフィのこういうところが好きだった。嘘偽りなく、素直で天真爛漫。
元々アーロン一味から救ってくれた恩人と言う背景もあるが、ナミがルフィを男として見るようになったのは『偉大なる航路(グランドライン)』に入ってからだ。
「私、用事を思い出したわ。ナミ、後はよろしくね?」
「ちょ、ロビン…!」
言うが早いか、忍術の如くロビンは能力を使ってあっという間に姿を消してしまった。
「で?」
「え?」
「ロビンと何話してたんだ?」
「…秘密よ。ロビンも言ってたでしょ。」
まさか目の前にいる本人のことだなんで口が裂けても言えやしない。
ナミは恥ずかしさを気取られぬようにフイと顔を背けた。
だがそれはルフィには気に入らなかったらしい。
「きゃっ!? ちょ、ルフィ!?」
突然の拘束を感じたかと思えば、ルフィの手や足がナミの身体にグルグルと巻き付いてきた。
「こっち見ろよ、ナミ。」
「ひゃっ、何言って…!」
「人と話す時は相手の顔を見ろって教わんなかったのかよ。」
言葉を話すたびにルフィの吐息が首筋に当たり、ナミはゾクゾクとした感覚に襲われた。無論ルフィ本人は全く意識していないのだろうが、ナミにしてみれば拷問に近い。
「わ、わかった! わかったから一旦離して…!」
「ししし! やっと観念したな?」
ナミが白旗宣言するとルフィはあっさりと彼女を解放した。
「で、ロビンと何を話してたんだ?」
「…この前手に入れたお宝の使い道を相談してたのよ。」
「宝ー? お前、ホント好きだな。」
「うるさいわね! いいでしょ別に!」
ナミは咄嗟にウソをつくことにした。
いや、あながちウソではない。お宝を含め、金銭のやりくりについてはロビンだけでなくサンジと相談することもよくある。もちろんヘソクリとして少しでも多く頂戴したいが、サニー号の経費については無下にできない。
「うちのクルーの食欲は尋常じゃないし、サニー号だってずっと無傷ってわけじゃなし、チョッパーの医療用品だってあるのよ。」
「薬なんて必要ねえじゃんか。」
「ケガしたときにどうやって治療すんのよ!」
「メンドウだなー。俺は肉が食えればいいや!」
「…その肉代も含まれてるのよ。」
ナミは頭を抱えつつも、これでルフィを納得させることはできた。
「さ、気が済んだでしょ? 私は進路を確認するから、アンタも部屋に…」
「でもよー、ナミ。」
「…今度は何よ。」
まだ何かあるのか、とナミはため息を漏らした。
「なんでさっき、好きとか嫌いとか言ってたんだよ。金と関係ねーじゃん。」
何を言われたのか、瞬時に理解できなかった。
「ル…フィ? 何言って…」
「お前、好きなヤツいるのか? この船のヤツか?」
「あ、ちょっ!」
再びグルグルと腕がナミの身体に巻き付いた。逃げられないように、今度は足にも絡み付いて。
「ルフィッ…!」
「なあ、誰だよ? 料理がうめェからサンジか? それともゾロか?」
「違っ…! は、離して…!」
「離さねェ。答えてくれるまで。」
「ひっ…!?」
かぷり、とルフィが耳に噛み付いた。唇で甘噛みし、舌でやわやわと縁をなぞっていく。
「やぁ…! ルフィッ…!」
「…言えよ。じゃねェとずっとこのまま続けるぞ? 俺だってもう子供じゃねェんだ。」
耳元で囁かれる、甘くも重い言葉が脳に響く。
思い切って助けを求めようとした口は、それより早くルフィの手で塞がれた。もう一方はナミの両胸の膨らみを優しく撫でるように往復する。
「んっ! んんっ…!」
「…ナミ、お前を誰かに取られるくらいなら…。」
ジンジンとした痺れが身体を駆け巡る。
この拘束から逃れる術を考えなければならないのにマヒした頭はそれを不可能にしていた。
そして、こんな状況なのに嬉しいと思う自分がいる。
「――このまま、喰っちまいたい…。」
「んっ…、」
…ねえ、それって、どういうこと?
問いたくても塞がれた口は言葉を紡ぐことを許されない。
ポロ…と零れた涙の軌跡に逆らって、ルフィは優しく舐めとる。
そうして散々、愛する男からの愛撫に溶かされたナミは、ついに観念して全てを打ち明けた。
『熱に溶ける想い』
「ロビンとは…アンタが私のことを、好きかどうか話してたのよ。」
「俺が?」
「アンタ、恋とか興味なさそうだから…。」
「何言ってんだ! 俺だって好きなヤツくらいいるぞ!!」
「…っ! そ、そうよね…。」
「俺は初めて会った時からナミしか見てねえよ!」
「!!」
Fin