小説(拍手用)

□目には歯を、歯には牙を−ATTACK−
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ドカーーーーン!!!

突如響いた、大爆発のような爆音に、麦わらのクルーたちは一斉に甲板に集まった。

「何だ!? 敵襲か!!?」
「何の音だ!!?」
「ナミすわぁん! ロビンちゅわあぁん!! 危ないから俺の後ろに隠れて…って、あれ?」
「ナミならあそこよ。」

そういってロビンが指差したのは見張り台のあるマストの上。航海の風に吹かれてオレンジの髪がなびいている。
元々甲板にいたロビンは、先ほどの爆音に驚くでも動揺するでもなく至って冷静に読書を続けている。

「おい! ナミー!! 何やってんだー!!」
「ナミすわぁん♪ 敵が来たかもしれないから気を付けてね〜!♪」
「敵なんて来てないわよ!!!」

一刀両断の叫びに一同は一瞬にして固まった。そして察した。

“ナミが怒っている。”

彼女を怒らせるなんて誰が何をしたんだ、どこの命知らずだと憶測が飛んだが、やがてその対象となるのは彼女の視線の先、そして攻撃の的である同盟相手の男だと判明した。

「おい、トラ男ー!! お前何やってんだー!!」
「…ッ! 麦わら屋!! この女を、くっ、止めろ…!!」

彼女の武器から繰り出される攻撃を懸命に避け続ける同盟相手。
どうしてこんな状況になったのか理由は分からない。しかし状況だけを見れば、悪いのはローなのだろう。

「トラ男! 何したか知らねェが取りあえずナミに謝っとけ!」
「謝るようなことはしてねェ!」
「ナミを怒らせるなんざ度胸あるじゃねェか。」
「ヨホホホ! ナミさんのパンツでも見たんですか?」
「アンタたち! 黙ってなさい!!」

ナミの、殺気にも等しい一喝で仲間のヤジはピタリと止まった。
どうやら冗談を言っていい雰囲気ではないようだ。こんな彼女を見るのは、手に入れたお宝を許可なしに全部使い尽くしてしまったか、彼女のミカンを黙って頂戴したときくらいだろう。

「トラ男!! 逃げるんじゃないわよ!!」
「逃げるに決まってんだろ!!」
「自分ばっかり電気使ってないで、たまには味わってみなさい!」
「“カウンター・ショック”の比じゃねえぞ! そんなもん喰らったら死んじまう!!」
「アンタみたいな外道、いっぺん死んで反省してから生まれ変わってきなさいよ!!」
「冗談でも笑えねえ!!」

眼下のクルーには目もくれず、ナミは逃げ回る男を睨み続ける。
全く心当たりのないナミの怒りに、ローはただただ船上を駆け回る。
彼の力を持ってすればナミをねじ伏せることは簡単だったが、そんなことをすればルフィを始め麦わらのクルーたちから総攻撃を受けかねない。そっちの方が返って分が悪い。

「このォ…! チョコマカと…!!」

ローの後を追いかけることはできないが、ナミは『天候棒(クリマタクト)』を片手に標的から目を逸らさない。
考えれば考えるほど収まらない怒りが、まるで燃え盛る炎の如く身体の中から噴き出してくる。立っているこの場が今にも燃え出すのではないかとさえ思うくらいだ。
やがてローが一瞬バランスを崩したスキを、ナミは見逃さなかった。

「喰らいなさい!!」
「くっ…! “Room”!!」
「サンダー・トラップ!!」
「“シャンブルズ”!!」

サニー号上空に雷鳴が轟いたのと、ローの姿が一瞬で移動したのはほぼ同時だった。
雷雲のひとつと自身を“入れ替え”て危機を脱する。

「能力を使うなんて卑怯よ!!」
「ワケも分からず攻撃してくるお前の方がよっぽどだ!!」

航海中のサニー号全体を覆うほどのローの能力。これだけの規模で発動し続ければ体力が底をつくのは目に見えて明らかだ。

「いい加減にしろ…! これ以上続けるなら俺も黙っちゃいねェぞ!!」
「いい加減にするのはアンタの方よ!! なんてことしてくれたのよ!!」
「何を…!? くっ…!」

一瞬の判断でローが身体を捻ると、すぐ真横を閃光が駆け抜けた。

「なァ…ロビン、ナミは何をあんなに怒っているんだ?」
「私にも分からないわ。逃げるようにトラ男君が出てきた、と思ったらすぐにナミが追いかけてきて、現在に至るのだもの。」
「トラ男は知らないって言ってる。」
「けれどナミは怒ってる。」

雷鳴と閃光が轟く下で、ルフィたちは「う〜ん…」と頭を悩ませた。

「昨日まではナミもトラ男も普通だったぞ。」
「ああ。いつも通り食事を終えて、今後の進路のことを話して、ナミは部屋に戻ったんだ。」
「部屋でも特に変わった様子はなかったわ。」
「ヨホホ、朝起きた時はどうでした?」
「彼女は寝ていたから、私が先に部屋を出たけど特に何も…。」

ヒュッ、と風を切るような音がしたかと思うと、傍にあった樽が消えて代わりにローが姿を現した。体力の消耗からか、息切れこそしているものの目に見える傷はないようだ。

「おい、トラ男! お前本当にナミに何もしてねェのかよ!?」
「くどいぞ麦わら屋! 知らねェもんは知らねェ!!」
「あ、待てよ!」

逃げるローを制しようと、ルフィが手を伸ばした瞬間。

ドカン!!!

「!!!」

ローがいたまさにその場に特大の雷が落ちた。さすがの至近距離での雷鳴は仲間たちの耳をマヒさせ、稲光は目を眩(くら)ませる。

「ナミー!! いい加減にしろよ、サニー号を壊す気か!?」
「そもそも何でそんなに怒ってんだ!?」
「教えろよナミー!」

下から求める仲間の声にさえイライラしてしまう。

「コイツが! ベルメールさんのケーキを食べたのよ!!」
「ベルメールさん?」
「ナミの母ちゃんだよ。」

元海兵であり、ナミとノジコの育ての親。ナミの誇りであり尊敬の対象である。

「昨日はベルメールさんの誕生日だったから…! サンジ君に頼んでとっておきのケーキを作ってもらったのに!!」
「それが…! 何だってんだ!!」
「よくも食べたわね!!! 絶っっっっ対に!!! 許さないんだからーーー!!!」
「何ぃ!!?」

進む航路の先は穏やかに晴れ渡っているというのに、サニー号の上空だけ、暗雲立ち込める雷鳴が留まるところを知らなかった。


…to be continued.

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