小説(拍手用)

□麻薬のような夢
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「あなたになら、全て奪われてもいいわ…。」

強引に顎を掴んで唇を奪った後、黄昏色の長い髪の女はそう呟いた。
そして縋(すが)るように抱きつく女にドフラミンゴは、らしからぬ戸惑いを露わにした。

先日、嫌がるこの女――ナミを、麦わら海賊団から無理やり連れ去りここに軟禁させたのは他ならぬ自分だからだ。彼女からしてみれば恨み、逃げ出しこそすれ、自ら自分を求めるような理由は決してないはずなのだ。
つい先ほども、抵抗する彼女を無理やり抑え込んで自分を刻み込んだばかりだった。

(…何か薬でも与えたか?)

もちろんそんなはずがない。
部下に命令は出していないし、勝手にそんなことをすれば命がないことくらい承知しているはずだ。

「…お前、どうかしたのか? 頭でもぶつけたか?」
「…どうしてそんなこと言うのドフィ? 私のこと嫌いになったの…?」
「い、いや、そうじゃねェが…。」

悲しげに表情を歪ませたナミにドフラミンゴは即座に否定した。
嫌いになどなるはずがない。むしろ彼にとっては願ってもない状況だ。

「今の私は、ドフィの思う通りに、ドフィの思うままになるわよ。」
「ナミ…、お前…。」
「だって、私……。」

ポッと頬を赤らめて自分を見上げる女は何とも愛らしかった。惚れた女のこんな顔を見て理性を抑えられる男などいようか。
ドフラミンゴは彼女の頬を両手で包み込むようにし、そっとその唇に近づいた。

「……今の私は、ドフィの夢の中の存在だもの。」
「……はっ…?」

プルプルプルプル!!
プルプルプルプル!!





――――――――――――――――――――





「……っ。」

素っ頓狂な声と、電伝虫の音にハッと我に返ればそこはいつもと変わらぬ現実。
目の前には飲みかけの上質な酒が波ひとつ立てずに静かに佇んでいる。窓から差し込む柔らかな光と上質なソファの感触が、先ほどの全てが夢であったことを知らせた。

「フ……フフッ…、フッフッフッフッフッ。」

らしくない夢を見たものだ、とドフラミンゴは自嘲(じちょう)した。
なぜこんな夢を見たのか。まさか自分の中に眠る潜在意識、無自覚な欲望の現れだとでもいうのだろうか。
鳴り続ける呼び出し音が煩(うるさ)くて、クッと人差し指を曲げる。するとピタリと音が止み、同時に音源も真っ二つに割れた。

「……まあ、いずれはそうなるかもしれねェがなァ。」

そう言ってチラリと視線を動かせば、そこには男のサイズに見合った大きなベッド。ゆっくりと立ち上がると、コツ、コツ、と靴を鳴らして男は近づく。
その上に眠るのはベッドには不釣り合いの小柄な、白く美しい肌の女。麦わら海賊団の航海士を務めるはずの彼女は船を離れてこの場にいる。

「お前のおかげで極上の夢を見たぜ、ナミ?」

彼女の頬を優しく撫でてやると、苦しげに眉をひそめた。
そんな様子にも男は笑みを絶やさない。

「お前は…どんな夢を見ているんだァ?」

ギシリとベッドを唸らせてドフラミンゴはナミを組み敷く。
先ほど必死で抵抗しながらも、男の力に敵わず深い快楽に落とされた彼女は静かな寝息を立てている。
望まぬ絶頂を何度も与えられ、情事特有の印を至るところに刻まれたシルクのような肌を指でなぞり、ドフラミンゴはさらに笑みを深くした。

「あの言葉…、いつか現実のものにしてやるよ。」

ペロリと唇をひと舐めして、ドフラミンゴはナミのそれに喰らいついた。



『麻薬のような夢』

彼女の全てが、男を惹きつけて離さない。



Fin

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