宝物庫(小説)

□囚われる
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糸で身体を操られたって、心までは縛れない。
どんなに身体を愛されたって、心は動かない。

だから、どんな暴力だって耐えられる。
あいつに心まではやらずにいられる。


それに、現実ではどんなに辛くても、
散々抱かれた後に、気を失うように眠れば、
仲間の夢を見た。

太陽の下で、海を行く、
彼らと、そこでバカ騒ぎをする自分の夢を。

だけど、これは、何。


「ねぇ、ドフィ」
「なんだ」

甘えた声で、ドフラミンゴにしなだれ掛かる、私。

「私にもそれ頂戴」

意思に反して、この男が喜ぶであろう笑みを浮かべる、私。

「ん? これか?」

とぼけるように、そう言って、一気にグラスを傾け、飲み干す。

これから起こることを待っている私と、
このあと起きることから逃げられない私。

とくり、と心臓の音が大きく響いた。

頭の後ろにまわされた大きな手に引き寄せられて、近づく顔にぎゅっと目を瞑る。

緩く閉じた唇に割って入る舌がくすぐったくて、

喉を滑り落ちていく、ワインがひどく甘く感じられて、目眩がした。

「……ドフィ、もっと」
「お前はほんとわがまま女だ」
「そんな私が好きなんでしょう」
「フッフッ…違いない」

再度近づく顔に、また少し心臓の音が速くなって

悪い夢に違いないのに、ワインの香りと、与えられるキスに頭がクラクラした。







「…ん、…ん?」

目の前に酒瓶が何本か転がっている。
そして、なんだか、すごく寒い。

「…何やってんだてめえは」
ちょうど部屋に入ってきたドフラミンゴが、そう、呆れたように尋ねた。

「何って……」

ああ、そうだ。こいつが留守の間にお酒飲みたいって、ベビー5にお願いしたんだった。

「…いつまでそうしてるつもりだ」

ソファにもたれたまま、そう声を掛けてくる。

「それともなんだ、運んでほしいのか」
「結構よ。自分で歩けるわ」

乱れていた髪を直し、ドフラミンゴの前に立ったところで

ふと、気づく。

こいつのもとに行って、どうするの、ナミ。


「きゃっ」
「早く座れ」

伸ばされた手に引き寄せられて、落ちるように男の膝の上に座る形になる。

「冷てェなァ……温めてやろうか?」
「遠慮するわ。疲れてるんでしょ」
「フッフッフッ…」

珍しいこともあるのね。
本当に何もしてこないなんて。

猫を撫でるように、ただ、髪を梳くだけの男を
ぼんやりと見つめる。

見つめたまま、気づけば、こう口走っていた。

「本当に疲れてるのね」
「そうかもしれん」
「キスしてあげましょうか?」
「ああ、頼……」

ぎょっとした顔で此方を見る、その顔がおかしくて、くすりと笑う。

額に青筋を浮かべる前に、肩に手を置いて、背伸びをするように
そっと触れるだけのキスをする。

「…………」

顔を赤らめこそしないものの、混乱してるのだろう、微動にだにしない男を見て、

なんだ、こうすれば良かったのね

と、もう一度、顔には出さずに笑った。


「ねぇ、」
「今日はもう喋るな」

キスで唇を塞ぐことも無く、
苦しいほどの強さでぎゅっと熱い胸板に押し付けられて、
ようやく自分の鼓動の速さに気づいた。

「本当に冷てェなァ…」


低く呟かれたその声が、どくりと響いて
服を掴む手が震えた。



ああ、おかしくておかしくて、涙が出る。

こんなやつに心まで明け渡してしまったら、

もう二度と、あの船には帰れないのに。



「囚われる」

唯一自由なはずの、この心が悲鳴をあげた。

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