UTAU

□弔花の少女A
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 菊の花が咲くその中心。
 銀髪の女性がそこに立っていた。
 俺は本当にいた、と目を見張り、その場に立ち尽くした。

「あ、あんた、は…」
『…だあれ?』

 覚えていないようだった。
 そりゃあ何年も前の事だ。そんなに前に助けた人間の事など、覚えてるほど珍しいだろう。
 でも、彼女は笑いかけ、俺に近づいた。

『…なんて、本当は覚えてる。何年か前に、迷子になった子だ』
「…! 覚えてて、くれたんだ…」
『ふふ。貴方、あの時もう5年生だったんでしょう?』
「な、なんでそれをっ!」
『私学校内で見たことあったわ』

 そういえばその時すでに学校にも通っていたし、友達もそこそこいたっけ。
 人一倍子供っぽかった俺は泣き虫だった。
 だから迷子になって泣いてたんだ。
 …でも、学校内でこんな人いたっけな。こんなに綺麗な人なら視界に入るはず。

『…何しにきたの?』
「え…あ、ああ…あの時の、お礼をもう一度…ちゃんとしたくて…」
『お礼? …ああ。いいのに。そんなの』
「いや、助けてもらったし…あの時はどうもありがとうございましたっ!」
『…ふふふ。なんだか面白い』

 笑う彼女はとても愛らしかった。
 …ふと、考えた。
 あの後、この人は事故にあったはずだ。
 それとも、違う人だったのか?

「…事故に、あった…よな?」
『………うん。車に跳ねられた』
「平気…だったわけないか」
『…貴方だけに言うわ。帝流(ている)君』
「えっ。なんで俺の名前…」

 彼女、帝さんは俺の口の前で人差し指をたてた。
 …ぽつぽつと話し始める。
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