UTAU

□弔花の少女@
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 雨。
 空がいつもと比べ物にならないくらいの雲が広がっているわけでもなく、普通に晴れている。
 いわゆる狐の嫁入りというやつだろう。

「うわ〜。雨か〜。グラウンド濡れてるよな〜。サッカーできねー」

 クラスのどこからか、そんな声が聞こえてきた。
 俺は運動系の部活には所属しておらず、かといって文化系でもない。
 少しため息をつき、頬杖で窓の外を見詰めた。
 雨の粒はきらきらと輝き、まるでガラス玉がふわふわと降ってきているような。
 幼い頃を思い出した。
 ――俺が5歳の頃。ある体験をした。
 引っ越してきたばかりでよくわからないこの町を、一人で出歩き迷子になった。
 その時雨が降ってくるし、段々と心細くなってきて道端で泣き出してしまったのだ。

『どうしたの?』

 そんな俺に声をかけてくれた人がいた。
 銀髪の白いワンピースを来て、白のサンダルを履いていた。
 首には細くて黒いヒモがチョーカーのように巻かれているが、少し肌がみえる。
 瞳の色は赤色。
 飾りには、黄色い菊の花。
 綺麗な人だった。

『僕、迷子になったの?』

 うん、と首をたてにふる。
 『そっか』と一言言うと傘を差し出してきてくれた。
 
『お姉さんがお母さん達の所まで連れてってあげる』

 そう言われ、俺はなにも怪しいとも思わず、ただ寂しくてその手を掴んだ。
 冷たい。でもどこか優しい感じがして安心した。
 数分たってその人に勇気を出して聞いてみた。

『なんで、菊の花をもってるの?』
『…お墓に行くところだったの』

 寂しそうな笑顔をみそてそう言った。
 行くところだった、俺は少し、というか申し訳なく思った。
 行くところだったのにひき止めてしまった。
 そんな思いが胸をよぎった。

『あっ!お母さん!お父さん!』
『…いた?』
『うん!ありがとう!お姉さん!あ、ちょっと待ってて!』

 そこで手を離し、両親の所へ駆け寄った。
 その時。

キキィィィッ…ドンッ

 背後からブレーキの音と何かのぶつかる音。
 驚いて振り返ると、地面に鮮やかな菊の花が散らばり、血が黒いコンクリートを染めているのが見えた。

『みちゃダメ!』
『これは…ひどい』
『…お姉さん…?』

 お姉さんが事故にあった、そうしか考えられなかった。
 母さんの指の間から見えたのは、さっき俺に差し出してくれていた赤色の傘だった。
 今思い返せば初恋だった。


「…なんでこんなこと思い出してんだろ。帰ろ…」

 我にかえり、リュックの片方を肩にかけ席をたつ。

「…!!」

 窓の外にみえる菊の花ばな。
 その中心に立つ女性。綺麗な銀髪。腕には菊の花。
 間違いなく、あの人だった。

「…そん、な…!」

 黒いヒモのチョーカーのようなものをした彼女。
 白いワンピース。
 赤い瞳。
 俺の、初恋の相手。

「っ!!」

 俺は急いで教室を出た。
 あの人が、あの人がお姉さんならば。

「あの時死んでなかった…!」

 傘をさすのも忘れ、ひたすら彼女のいた菊の花で溢れかえった墓地の近くまで走った。

 ――あの時の、お礼を、もう一度――

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