夢小説
□彼ジャー。
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「雷門。そこのタオル取ってくれ」
「え?これ? はい、どうぞ」
「ありがとう」
私は豪炎寺君にタオルを渡し、ベンチに座ってボール磨きを続けた。
休憩が終わり、練習が再開される。
今日はFFIの時のチームが集まって練習を行っていた。
季節は冬。動いてる彼らにとってはどうってことないのだろうけど、マネージャーはベンチに座って仕事することが多い。
長袖を着ててもマフラーをしても寒いだろう。
「う〜っ!寒いですねーっ!さむっさむっっ!」
「春菜さんジャージは?」
「今日忘れちゃったんですよ〜。昨日コーヒー溢して必死に洗って汚れは落ちたんですけど…」
「もってくるのを忘れたのね」
「はい…お恥ずかしい」
春菜さんはへへっと鼻の頭を赤くして微笑んだ。
「音無さん!」
立向居君が走ってきて春菜さんの前で立ち止まる。
「そんな格好でいちゃダメだよ!風邪引くよ!?」
「えへへっ」
「これ着てて!俺のジャージ。サイズは大きいだろうけど、無いよりマシだから」
「え。あ、ありがとう…」
鼻先どころか、頬や耳までが赤くなっていた。
可愛いわね、と木野さんと冬花さんと微笑ましく思った。
季節では何が好きかとか、名前の由来とか、さっきの微笑ましい光景の話とか。女の子らしい会話をしていた。
と、それを聞いた不動君がやってきて。
「ほらよ。久遠」
「え?不動君、いいの?」
「ああ。着とけ。いくら冬が好きだって言っても寒いもんは寒いだろ」
「…ありがとう。明王君」
「名前で呼ぶな!名前で!」
不動君はツンデレだと思うわ。
…思うのだけど、あの頭が一番寒そうなんだけど。それはもしかしたらツッコんではいけないのかしら?
「秋ぃーっ!寒かったらそこに置いてある俺のジャージ着てていいぞーっ!」
「円堂君…ありがとーっ!着させてもらうねーっ!」
なんだか次々とあの噂の「彼ジャー」を着ているのですが。
私、そんな親しい男の子いないのですが。
円堂君はそうだけど木野さんだし。
てゆうか地味に寒いし。
う〜。誰か私にジャージを!
「雷門」
「え? 豪炎寺君?」
「…ほら」
「? ジャージ…着てていいのっ?」
「…ああ」
「ありがとう!寒かったの!本当にありがとう!」
「……ん」
短く返事をしてすぐに練習に戻ってしまった。
…照れてる。可愛い。
「……はっ!」
右から二人、左から一人。合計三人からの視線が感じられて、すぐさま我に返った。
「…かわいー。夏未さん」
「豪炎寺君クールだからきっとそんな事はしないと思ってた」
「いいですねー。若いって」
「あなた私より年下じゃないの!ていうかもう!からかわないでちょうだい!」
とか言いつつ豪炎寺君のジャージに腕を通す。
暖かい。彼の匂いがする。
私からしたらはるかに大きいジャージ。
男の子なんだなあって実感する。
豪炎寺君は木野さんの言った通りにクールだ。鬼道君のようにポーカーフェイスはあまり崩さないし、行動もよく考えてから行う。
サッカーになると熱い思いで笑顔になってプレーする。
ちょっと、カッコいいなと思ってたり。
優しいから誰からも好かれてサッカー部のエースストライカーということもあってか、女子からの人気も絶えない。
「…大きい」
ジャージが大きい事を、再度確認する。
そして、彼が好きなんだということをハッキリと認識した。