氷帝

□memory hog
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一足先に部室に帰ってきた跡部は、3日程前から飾られているらしい笹を見つめていた。


夏休み前で何かと忙しく中々部活に来ることのできない日々だった跡部。
久し振りに部室に入った今日、自分のいつも腰かけている席の隣に、自然に飾られている笹を見つけて大きく瞬きをしてしまった。
笹を飾ってもいいか、と岳人達に聞かれ許可していたものの、実物を見るとやはり驚く。



部誌に目を通す為に腰かけると想像以上の近さだった。
そして作業を始めよう机に目を見やると、そこには一枚の水色の短冊が置いてあった。

書け、ということなのだろう。
一時部誌に目を通すのは中断して、願いを考える。
まぁ、考える間もなく「願い」と言えばすぐに思い浮かべられてしまうのだが。
他の連中は何を書いたのかと短冊を眺める。


そして跡部の座るその場所から一番に目につく位置に飾られている短冊。
いつもは流れるような文字を書くくせに。
普段とは違う妙に一画一画に力を込めたような、書き始めと書き終わりにインク溜めができてしまった『全国制覇』の文字。
七夕なんてイベント、大好きであろうロマンチストが書いた願い。

ふと笑みがこぼれた。
それでこそ我が氷帝学園の誇る天才だ。俺様が愛するだけのことはある。
テニスを思う気持ちをこんなにも共有できる彼だからこそ好きになったのだ。


満足そうに笑い、自らも筆を取ろうとしたその時、視界の隅で短冊が揺れた。
不思議に思い、揺れた短冊を手にする。

「跡部とずっと一緒にいられますように。」

きっとここなら見つからないと思って隅に飾ったのだろう。
ロマンチストはやっぱりロマンチストだった。
今度こそ跡部は声をあげて笑う。


さあ、俺も空に願おうか。
願うことはただ一つ『全国制覇』


だってもう一つの願いは彼が書いてくれたのだから。



end



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