氷帝

□どこまでも、と嘯きながら
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彼を抱きしめる力の強さを。
今さら、加減が利くとは思えなかった。
いつもいつも。彼が苦しくないように気をつけて、その内に適当というものが分からなくなって。
彼が不満げに、自分の何倍もの強さで抱きしめ返していることに気づいた時に、やっと安心できる。物足りない、と思っていてくれるのだろうか。
いつの間にか緩く、緩くなって行く腕の拘束を歯痒く思ってくれたなら、と望む事をきっと彼は許してくれる。
だからといって、この力の入りきらない腕を受け入れてはくれない。
もっと強い拘束を。読んで字のごとく、抱き・締めることを求めている。

「跡部、それは流石に苦しい、」

「あん?ふざけんな。てめえもこれくらい力強く抱きしめてみやがれ。」


鼻で笑うその声音が甘さを含んでいることを確認して、腕に力をこめた。
跡部が望むのなら、二人決して離れてしまわないように強く、強く抱きしめる。
そして途端に緩くなる彼の腕の拘束。
この、あまのじゃくめ。

どれだけ力をこめたとしても、抱き潰すことなんて出来ない。鍛えられた筋肉とまだまだ成長し続ける跡部の身体。

あぁ、本当に彼で良かった。


好きで、好きで、愛しすぎても。
絶対に崩れてしまうことなんてない、彼を好きで良かった。

跡部の肩に顔を埋めて、息を吸った。
くすぐってぇ、と笑う彼の前にこんな泣きそうな面を晒さないように。



end



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