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□微睡みのフィルム
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膝枕、というのは誰しも憧れるシチュエーションだと思う。

恥ずかしがってなかなか触れ合うことの出来ない恋人がいるのなら尚更。
まぁ、跡部が恥ずかしがらなかったとしても膝枕したいだなんて、俺が恥ずかしくて言えない。

だから、
跡部に膝枕、というのは俺の中でだけの妄想混じりの希望でしかなかったはずなんだ。


なのに、



一体これはなんだろう。

今日の跡部はえらくご機嫌で、部活も終わって一緒に俺の家に向かう時にも珍しく手をつないでくれて、家に着いたら着いたでいつもより近い距離でソファに腰かける。

頭を撫でても
"うっとおしい"
等と言って手を払ったりしないし、頬に指を滑らせても
猫の様に目を閉じてすりよってくる。


そして、極めつけが
この今の体勢。


「髪、くすぐってえ」

「………」

確かに、膝枕に憧れてはいた。

だけど想像していたのは、柔らかくもなくて恐らく寝心地もよくないであろう俺の膝に、跡部の柔らかい蜂蜜色をした髪が広がるその光景だったわけで。


まさか、俺が膝枕されているだなんて。


ソファでいつもより優しい跡部の白く透けるような顔を撫でたり、見た目に反して固い豆の残る手のひらを握ったりしているうちになにやら跡部がもごもごし始めて。

「景ちゃん、お腹減ったん?」
「…いや、」
「眠いん?」
「全然」
「ほんなら、な「おれが!

……膝枕とか、してやるよ」


視線を合わさず目の縁を薄く染めて、笑っているのか嫌がっているのかわからない様な顔でそんな事を言われては、くらりと目眩がしてしまうのも仕方がない。

第一、膝枕とかって。とかって…他にも何かしてくれるんか?とか期待する。

その後は、ぽかんと脳内妄想を繰り広げている俺に苛ついた彼が「おらっ!!」とか叫びながら自分の膝に俺を転がして、今の状況に至る。


睫毛、長いなあ…
下から跡部を見上げるのは初めてかもしれない。
態度的な意味ではいつも下から見上げているけれど。

跡部も物珍しいのか、ペタペタ俺の顔を触ったり、髪の毛を細く編んだりしている。
たまに覗き込まれる瞳とか、顔が近づくのに比例して薫る跡部の香りとか、
すごく、ドキドキする。


もっと、触れたくて。


寝そべっていた跡部の膝から頭を浮かせて、キスをした。

「………ん、はぁっ、この体勢めっちゃつら、」
「ふん、腹筋足んねえんじゃねぇの」
「結構鍛えてんけどなぁ」


ふっくらとしている跡部の唇はいくらでも吸い付いていられるのに、俺の腹筋が悲鳴をあげて長い時間唇を合わすことができない。

どうやらその事が跡部も不満なようで少し唇を尖らせながら俺の鼻を摘まむ。

「景ひゃん、痛い」
「うるせえ」
「俺が起きあがったら長いことちゅーできるで」
「……却下」

よっぽど膝枕が気に入ったのだろうか、起きあがる事を許してくれない跡部は、それでもキスはしたいようで迷うように視線を泳がせる。

「景吾さん、景吾さん」
「あ?」
「景ちゃんが俺にちゅーしてくれればええんちゃう?」
「………」

あ、とかう、とかうめき声をあげて、やっと決心したように跡部が此方を見据える。
ゆっくりと近づく顔は緊張しているのが丸わかりでなんていうか、可愛くて仕方がない。

普段コートの上ではあんなに格好いいのに。
俺以外には絶対見せない顔。
俺にしか見せない顔。

眼鏡を取り払われて、更に近づく距離には俺だってドキドキしてはいる。

でもそれより
触れたい想いが大きくて。


ちゅ、と軽い音をさせて一瞬離れた後、また合わさる。
一度してしまえば羞恥心は消えたのか、スイッチが入ったように何度も何度もキスをする跡部は、碧い瞳に薄い膜を張り目の縁を赤く染めている。

どれだけ一緒に居たって見たことのない顔をいつも見せてくれる。

「…ん、ふっ」
微かな声を漏らしながらまだ足りないとでも言うように数えきれない程のキスをする彼を、大声で
俺のものだ
と、叫びだしたい。



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