another

□攪乱
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バタン
大きな音を立てて閉まった扉は跡部の焦りを表しているようだ。

随分と、遅い時間になってしまった。

もう部室内には誰もいなくて外も太陽が月と入れ替わりかけていて、恐らくあと30分程で完全下校のチャイムがなってしまう。

急いで部誌を書き上げてしまおうと、ノートを開いて腰を落ち着かせると誰もいないと思っていた部室なのに僅かに音がする。

どうやら誰かがシャワーを浴びているらしかった。
"誰か"と言っても
跡部が部室に帰ってくるこんな遅くまで残っている人物なんて1人しか思い浮かばない。

待たせてしまって申し訳ない気持ちもあるのだが、
どうせ彼は何食わぬ顔で自分を待つ事なんて苦にも思っていないのだから、と
気を取り直して部誌に向かい合う。


やがて、濡れたままの髪をタオルで拭きながらシャワー室から忍足が出てきた。

「えらい遅まで残っとんね」
「……ふん」

わざとらしく小首を傾げる忍足に一瞥をくれてやる。
今、気づいたみたいな顔をしているけれど俺を待っていた事なんて丸わかりだ。

「景ちゃん、」
「あ?」
「匂い、嗅がして」

一瞬、
俺が部誌を広げている机に両腕をつき、身をのりだしてくる忍足が何を言いたいのかわからなかった。

「は?ちょ、」
「……」

慌てる俺を気にもせず、いつの間に背後に回ったのか右肩に重み。
続いて鼻を啜るような微かな音が。

「…景ちゃん、暴れんといて。鼻痛い」

思わず身動ぎはね上がった俺の肩で鼻をうったらしい忍足がむすりとした顔で鼻をさする。

「に、匂いとか嗅ぐなよ!汗かいてんだから!!」

「えー?景ちゃんの汗の匂いは絶品やで」

溶かした甘い飴のようにだらけた顔で笑う忍足は、なんと言うか、変態っぽい。

首筋に顔を埋められて鳥肌が立つ。

「おまっ、ほんとに……ぅあっ!!」

「あかん、めっちゃいい匂い!!」

効きすぎの空調のせいか、首筋に纏わりつくこいつのせいか、上がる体温によって浮かんだ汗を舐めとられる。

(…気持ちわりぃ)

ますます調子に乗った忍足が、
スーハー、スーハー
と危ない奴のように吸い込む音に我慢ならず肘鉄を喰らわせる。

「いった!!何すんねん!!」

「"何すんねん"はこっちだ!
前々から変態だとは思っていたが、再確認した。てめえは本物のド変態だ!」

「変態ちゃうわ!これは"フェチ"や!」

「…フェチ?」

「そうや、匂いフェチ。ええ匂いとか我慢できん」

「だからって、俺の汗はいい匂いでは無いだろうが!」

何を言っているんだ、とでも言いたそうに眉をひそめた忍足が迫ってくる。
反射的に椅子から立ち上がり後ずさるが、思った以上に壁は近く、すぐに追い詰められた。

「景ちゃん、俺が言葉足らずやったわ。」
「あん?」

息がかかる程の至近距離。
いつもこれ位真面目な顔をしていればいいのに。

「あんな。俺は"景吾の"匂いフェチなんよ」
「景吾以外の汗舐めるとか絶対無理やし」
「そもそも景吾以外の匂いとか嗅がんし」

次々と口をついてでる言葉はやっぱり変態のような物だけれど。
こうしている間にも彼は鼻をならして匂いを嗅いでいるのだけれど。

「…もう好きなだけ嗅げ」
「おおきに」

ぼだされているな、と思う。

「侑士、」
「ん?」

首に顔を埋めたまま話されるとくすぐったい。

「お前もたまにはシャワー浴びずに待っとけ」
「なんで」

軽い潔癖症の気がある彼は1番にシャワーを浴びて最後に出る。
汗の匂いを感じる暇もない。








「俺だって、……お前の匂いが好きなんだ」






end




ましろ様、キリリクありがとうございました。
跡部の匂いフェチな忍足と、引きつつも忍足が好きな跡部
というリクエストでしたが、どうでしょうか。
跡部が大分デレてしまいました…!
すいません(土下座

このような作品ですがどのようになされてもOKですので!

直す所なども待っております!

それでは改めましてキリリクありがとうございました。



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