氷帝2
□機密幸福論
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「なあ、跡部。」
「なんだ」
「…いや。」
わかっている。お前が尋ねたいことなんて。
この繋がれた手のことだろう?
もっと。例えば、環境すらも変えられる様な大人だったら良かったのに。
あるいは、手を繋ぎあっても違和感のない幼い子供だったなら。
周りを気にすることも無く手を繋げただろうに。
「跡部、なんや焦っとる?いつもより歩くん速いで。」
「…悪い。」
「せっかくのデートなんやからゆっくり歩こうや。」
歩調を弛める。忍足が手をきつく握り直して、笑う。
「デート言うても、一緒に帰っとるだけやけどな。」
あぁ。だけど。やっぱり今で良かった。
こうやって学校からの帰り道を心弾ませながら歩くことのできる年齢で、忍足に出逢えて。
「…デートだ。手、繋いでるんだから。」
「うん。」
忍足の家が近づく。二人だけで、もっと近くに触れあえる場所が。
二人だけと言ったって、二人きりというわけではないけれど。忍足の家族だって居るのだし。
それでも世界中のどの場所より二人だ。
玄関のドアが見えてきて、歩みが自然と速まる。
「今日もお前が傍に居ってくれるんが、幸せやで。」
立ち止まって笑う彼に、俺はこの言葉以外を伝える選択肢などあるだろうか。
「当たり前だろ。俺が傍に居てやってるんだから。」
HAPPY BIRTHDAY 侑士。
扉が開いて忍足が両手を広げる。そこに飛び込むことが俺の幸せだ。
end
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