devote for you

□奇妙な部屋
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第七章から三日後。



「そういう事言うな。」



申し訳ありません。



響華が告白された日から三日後。










「よいしょっと...........」


掛け声と共に、ごみ袋の口をきゅっと結ぶ。


弥生は一週間に一度、町を訪れる回収業者にごみを渡すため前日に出すごみを袋にしてまとめている。


といっても人の生活に乏しい弓崎家では出るごみも少なく、リビングの物は弥生が縛った中型のごみ袋一つで終わりだった。


念のために各部屋を回り、目立った紙くずや不要品が無いか探すも、使われていない部屋もいくつかあるこの家ではそのような物は見受けられない。


ただ一つ、あるとすればーーーーー





「ーーーーやっぱり、この部屋よね。」


弥生の足は、響華の部屋のドアで止まる。


いつもなら響華を呼び出して、自分の部屋のごみを持って来させるのだが、この日は学校で何か用事があるのか6時を過ぎた今でも帰って来ない。




「まあ、部屋のごみを集めるだけだし、別に勝手に入っても良いでしょ。」


その言葉を免罪符とするかのように、弥生は躊躇(ちゅうちょ)なくドアノブに手をかける。


弥生が響華の部屋に入りたかった理由はそれだけでは無かった。







弥生はまだ一度も響華の部屋に入った事が無い。



響華は基本リビングに来て弥生と話していくし、弥生も部屋を訪ねてまで伝えなければならない用件は今まで特に無かった。


何より一番の理由は、響華本人が弥生が自分の部屋に入るのを禁止していた事だった。



『私がいない時に勝手に部屋に入らないで下さい。』


二日目の夜、夕食のムニエルを食べ終えた響華にこう言われた。


実際には響華がいる時でも部屋に入った事は無かったのだが。



(なんで勝手に入っちゃいけないんだろうなぁ.............)



そんなことを考えながら、弥生は部屋のドアを開けた。






ナンカスゴイデジャブ.........



























「............うーん...........?」



初めて入った響華の部屋をざっと見回して発した第一声がそれだった。



響華の部屋は予想通り小綺麗に掃除されており、特殊なグッズや珍妙な道具が置いてある訳では無い。


大きな家具は勉強机とベッド、クローゼットだけであり、それだけ見れば一般的女子高生のそれと大差は無い。


にも関わらず、弥生が前述のような声を発したのには理由がある。







「なんか.........シンプル過ぎない、この部屋?」


部屋の真ん中まで歩き、隅々までくまなく全体を見るが、感想は変わらない。


住宅マンションのパンフレットに描かれてあるモデルルームのような響華の部屋。


そこには、およそ娯楽品と呼べるような雑貨や本などが全くないのである。



唯一充実している勉強机も、よくよく見れば立て掛けてあるのは教科書や参考書ばかりであり、雑誌や文庫本等は存在しない。



「ここは.........どうなんだろう?」


弥生はクローゼットの取っ手を掴み、両手で開く。


高級そうに見えるクローゼットの中身は私服が数着しか入っておらず、大きな隙間が寂しそうに空いていた。



クローゼットの中を見終えた弥生は、扉を元に戻そうとする。




しかし、




「あ、あれ?閉まらない..........」



二、三度力を込めるが扉は閉まらず、大きく体重をかけてようやく元に戻る。


少し離れた位置からクローゼットをよく見ると、扉の所々に細かい傷がついており、僅かに右の側面がへこんでいた。


肝心の側面は部屋の角で塞がれていて、クローゼットを動かさないと見ることが出来ない。



弥生はクローゼットの左側を両手で持ち、ゆっくりと引きずる。


できた隙間を横から覗くと、クローゼットには角材でつけたような大きなへこみがあった。



「もしかして、他の家具も........?」



クローゼットを元の位置に戻した弥生は、机とベッドを調べる。


一見しただけでは気付かないが、どちらの家具にも壁で隠れている部分に傷やへこみが存在していた。






「なんなのよ、この部屋........?」



部屋を調べ終えた弥生が唸る。



趣味や楽しみ、娯楽が無く、傷に歪み、空白が点在する響華の部屋。



親に見放された子供は、皆このような物になってしまうのかと、弥生は悲しみを覚えた。






「..........っと、いけない、早くしないと」


弥生は我に返り、部屋にあるゴミ箱の中身を袋に移す。



机の上を軽く掃除した後、ベッドの枕元を片付け始める。


小さなクズが無いかスタンドライトを持ち上げた時、あることに気付いた。




「? なにこれ。」


ライトの下に赤い本が敷いてある。


手に取って見ると、高級な厚い革張りが施されており、表紙にはアルファベットの大文字で『DIARY』と刻まれていた。


「これって..........日記.........よね...........」



本の外装を見ながら呟く。



(響華ちゃんの好きな人..........もしかしたら書いてあるかも........)


人の日記を読むなどという事は、プライバシーの重大な侵害。


しかし、いけないとは思いつつも弥生の指は表紙の端に動いてしまう。






「...........................」










「ごめん.........響華ちゃん..........」


日記越しに本人に謝ると、弥生は表紙を開いて読み始めた。

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