devote for you

□イラつく出会い
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翌日。



「地図だと、ここら辺にあるはず............」



弥生は雇い主の自宅を訪れていた。


弥生の家から電車で25分。
駅から降りて20分ほどでたどり着いた閑静な住宅街。

いかにもという感じの豪邸は見つからないものの、並んでいる物件は一目見ただけで高級住宅だということが分かる。

上流家庭の奥様達が暇をもて余しているのか、ベランダでお茶会を開いている所もあった。


「こう家が立ち並んでちゃどれがどれだか分かんないじゃない......」


悪態をつきながら目的の家を探す。


十数分後、弥生はようやく雇い主の家を発見することが出来た。

表札に【弓崎】と刻まれているその家は、他の住宅と変わらずなかなかに豪勢な雰囲気を放っている。

弥生は表札の近くのインターフォンを押す。

モニターの前で愛想笑いを浮かべ、雇い主が出てくるのを待った。





































しかし出てこなかった。



「居ないじゃないの、もう!」


数分間無理に笑顔を保ったせいで軽くひきつっている頬をさする。


2、3回押してみるものの、モニター画面には何も映らない。


「せっかく来てやったのにここで待ってろってか。」


インターフォンのボタンを押しながら弥生は再び悪態をつく。

意外に押し心地がいいボタンは、
無意識に連打してしまう。


「くらえっ高橋名人の16連射!シュタタタタタタ............」


どう考えても生まれた年代と一致しないギャグを一人でやっていると、












「何をしているんですか?」



後ろから清楚な声が聞こえて来た。





(やべっ..............!)


気付いた弥生が慌てて振り替える。


そこには清楚な声にふさわしい華麗な美少女が立っていた。



顔の各パーツが綺麗に整った端正な顔立ちだが、人によっては少し冷たそうだと敬遠してしまうかも知れない。

結んだ髪の毛を腰元まで伸ばしたツインテールは、遠くから見ればただのロングヘアーと勘違いするだろう。

スタイルも全体的に完成されているが、胸の大きさだけは標準サイズより少し小さかった。



(誉めているのか誉めていないのかどっちなのよ)


弥生が誰に対して言っているのか分からない文句を考えていると、その少女は再び話しかけてきた。




「うちに何か御用でしょうか。」

「私、ロッテンマイヤー家政婦紹介所から来ました、家政婦の弥生朝希と言います。」

ペコリと頭を下げながら軽く自己紹介を済ませる。


「今日からこちらの家に勤めさせて頂くことになったのですが.............貴女は、娘さんの『弓崎響華』さん、ですよね?」

「そうですけど。」

「お母様から話は聞いていませんでしょうか?」

「聞いてましたけど.........もっと、お年を召した方が来るのかと思って...........」


響華が弥生の体をちらちと見ながら答える。



確かに大学生くらいの女性が自分の家のインターフォンを連打していても、家政婦とは見えないだろう。

(ほっとけ!)「お母様は、今どちらに...........?」

「多分愛人の所だと思います。」


響華がさらりと答えるが、その内容はどう考えてもさらりと言える内容では無い。


「えっ、あっ、あい、じん........?」

「立ち話もなんですし、とりあえずお入り下さい。」


響華が全く気にする様子もなく、門の鍵を開ける。


「あっ、はい、ありがとうございます...........」



(なんなのよ、この子..........?)


先に家に入っていく響華の後ろ姿を、弥生は訝しそうに見つめた。


















「どうぞ。」

テーブルの上に暖められたティーカップが置かれる。


響華に礼を告げた後、ハーブティーを静かに飲みながらリビングを見回す。


部屋全体は白を基調として調えられており、シミ一つ無いシルクのカーテンが映える。

清廉な家具が並んでいるが、気取っているということも無く、豪華なインテリアなどは抑えられている。

響華が開けた窓からは柔らかな風が流れ込んで来ており、軽く舞い上がるカーテンが涼しさを付加させていた。


全体が上品な雰囲気に包まれている弓崎家は、さすが上流家庭ともいうべき美しさだった。



しかし、弥生の頭には一つの疑問が浮かぶ。


(どうしてわざわざ家政婦雇ったんだろう?)


ざっと見ただけでもリビングは綺麗に片付いており、これ以上掃除する必要は無い。

他の場所は玄関しか見ていないが、恐らくリビングと同じくきっちりと清掃されているだろう。



わざわざ家政婦を雇う必要性を弥生は見出だせなかった。




「弥生さん、飲み終りましたら、後片付けお願い致しますね。」


先に紅茶を飲み終えた響華が席を立つ。


「あ、はい、分かりました。」

「その後は軽くリビングを掃除して下さい。私と母の部屋は大丈夫ですから」

「分かりました。」



某人気家政婦ドラマの様に至極冷静に受け答えするも、弥生の頭の中は不満で一杯だった。


(掃除ってったって、そもそも散らかってる場所が無いじゃない!
どうすれば良いのよ!)


「あの、終りましたら、私はどうすれば..........」

「部屋を汚さなければ、何をしてくださっても結構です。」


響華が素っ気なく言い放つ。


元々怒りを堪えられる性格では無い弥生だったが、なんとか顔には出さずにいる事が出来た。


「わ、分かりました........」




























「なんなのよあの娘!あんなに突き放して!」


弥生がお得意の悪態をつく。


リビングは既に大部分が掃除されており、弥生が手を加える必要はほとんど無かった。


やることが無くなってしまった弥生は暇をもて余し、ソファの上で携帯をいじっていた。



「あの響華って子、アタシが家政婦だからって馬鹿にしてるわね〜!

女を怒らせたらどうなるかたっぷり教えてあげようか〜!? この〜!」


携帯をいつもより乱暴に扱う。

響華が弥生に対して親切な態度をとっていない事は事実だが、それが別に弥生を馬鹿にしていると決まったわけでは無い。

そして響華も女である。「女を怒らせたら」という表現はおかしい。


「うるっさいわね!アンタはどっちの味方なのよ!」


い、いや、別に敵味方なんて関係無いですよ。ただ変な所を指摘してるだけで........


「主役はアタシよ!ごちゃごちゃ言ってると地の文一人称にするわよ!」


わ、分かりましたよ、もう変なことは言いませんよ。


「分かればいいのよ、分かれば。」

同じバカでも理可さんとはエライ違いだなぁ...........


「なんか言った?」


いえ、何も。












しばらく携帯をいじっていた弥生だが、残りの充電を示す電池のアイコンが四分の一にまで減ったのを見て、弥生はしぶしぶ電源を落とした。


時計は三時半を示しており、空もまだまだ明るい。


「やること無いし、どうしようかなぁ..........」


大きくのびをしたあと、あくびをする。


このまま何もせずに惚けていると、そのうち寝入ってしまうだろう。

「いくら何でもお昼寝は不味いよねぇ........(・_・)ゞ」


首筋を人差し指でポリポリと掻く。


このAAだとどう見ても掻いている場所は頭の裏だが、弥生は気にしない。


「ちょっと早いけど......晩ごはん作るか!」


思い立った様に勢いよく立ち上がる。


弥生は台所にある冷蔵庫を開けて、中に入っている食材を一つ一つ調べていく。


「洋風な料理の方がこの家に合うし、ロールキャベツでも作ろうかな......?」


食材を確認しながら、作る料理を次々と決めていく。



メニューを全て考えた後、弥生は冷蔵庫を一旦閉じ、必要な道具を取り出し初めた。









飲み物を取りにリビングに向かった響華が台所の料理の匂いに気付いたのは、それから一時間後の事だった。



「弥生さん、何を........?」

「掃除が早めに終わったので、夕食を作ろうかと思いまして。(見りゃ分かるでしょうが!こんなところで洗濯でもするの?(゜ロ゜))」


まだ完全に鎮まっていない怒りを押し隠し、流暢な敬語で返事をする。


本当は一時間以上もの間、やることも無くゴロゴロしていたのだが。


「まだ五時ですよ?少し早すぎませんか?」

「大丈夫です。下ごしらえからじっくり時間をかけますし、冷めない程度に置いておきますから。(人の料理に口出すなよ!ゞ(`')、)」

「そうですか...........何を作ってるんですか?」

「ビーフシチューです。響華さんは牛肉、大丈夫ですか?(無理だっつっても抜く気は無いけどね(^^))」

「大丈夫です。」


鍋の中身をを覗きこみながら、響華が答える。


「こっちの鍋は何を?」

「ロールキャベツです。スープ、味見してみますか?(ちょっ、勝手に入って来ないでよ!気が散るじゃない!(`∧´))」

「いいんですか?」

「もう出来てますし、良いですよ。 はい。(ちゃんと味わって飲みなさいよ!( ̄^ ̄))」


棚から小皿を取り出し、お玉で注ぐ。


弥生からロールキャベツのスープを受け取った響華は、二、三度吹いたあと、スープを飲んだ。



「....................」

「どうですか?(美味しいでしょ?これでやっと見直したわね!(⌒‐⌒))」

「..........おい、しい。」

「はい?」

「凄く........美味しいです。 こんなの、始めて..........」

「そうですか。ありがとうございます。(それだけ?もっと誉めなさいよ!誰のために作ってやったと思ってんのよ!Σ(゜ロ゜))」


弥生が予想以下の評価に内心憤慨していると、



「料理が出来たら呼んでください。」


と言い放ち、響華は自分の部屋に戻って行った。



一人残される弥生。






「な......なんなのよ、あの女!
つまみ食いしただけで終わり!?手伝いもしない訳!?」


弥生が声を荒げる。


「あーもう!料理作ったらさっさと帰らせて貰うからね!」


え、ちょっ、それはまずいんじゃ.......


「なんでよ。夕食作ったらアタシはもうお役御免でしょ!」



だって一応ここは九時までいる約束じゃ........


「九時までいて何すんのよ?どうせあの娘は部屋に籠りっきりだし、母親は愛人の所にいるんでしょ。やること無いじゃない。」


父親がいるじゃないですか.........


「アンタねぇ、母親が愛人作って帰って来ないのに、父親が帰って来る訳無いでしょうが!」


そ、そうですか.......


「良いわよ初日なんだから、確認の為とかテキトーな事言ってさっさと帰らせて貰うから。
そのくらいで怒って電話寄越したりなんかしないでしょ。」


ま、まあ納得のいく説明をつければ帰らしてもらえるでしょうけど......


「そうでしょ?よし、決めた!
そうとなったら早く作っちゃいましょ!」


ぼ、僕は知りませんからね?
全くもう..........

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